歌集 往還集

歌集 往還集

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  • サイズ B6判/ページ数 275p
  • 商品コード 9784000002400
  • NDC分類 911.168
  • Cコード C0092

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

夜間飛行

189
《石炭の上にのぼりて居りし亀死にておつるを児は見きといふ》《悲しみに人あつまりて繭の値の話するなかにわれもすわれり》…死が生の現場に関わってくる事への無造作な捉え方に瞠目した。《命ぜられしフーフェランドの翻訳は年渡れるに果さざりけり》…亡き人からの依嘱を果たしてない負い目。父病むの題で、《死病ならば金をかくるも勿体なしと父の云ふことも道理(もつとも)と思ふ》《祖父(おほちち)のやまひ気づかふ妻子等に潮たるる鯊(はぜ)の包をわたす》…祖父は作者の父。一寸したやり取りから倹しい暮らしや家族の心情を伝えている。2022/07/27

夜間飛行

189
《休暇となり帰らずに居る下宿部屋思はぬところに夕影のさす》…なぜか、この巻頭歌を何度も思い出す。《死にすればただあはれなり枯草の土堤を上りて舁かれゆきけり》…「舁く」は「籠をかく」の「かく」で死刑囚の棺を運ぶ情景だが、「あはれなり」と心中呟いてひっそり佇む姿から巻頭歌と同質の時間意識を感じる。《校庭のひそかなるそばを通りぬけ宮滝川の上にいでたり》《山深く草さまざまに名を知らず道に親しきおほばこの花》…自分の知らない時間が流れていることの不思議。そうした歌と共に、激しい感情表出や極端な字余りの歌もちらほら。2022/05/27

夜間飛行

184
初句字余りの歌に惚れた。《街のさわぎ唯とどとしか聞えねば九官鳥の叫び高しも》《諏訪の湖の鮒をうまらに煮て持てり町をこえて父と母とあれば》《歩みおくれし子供はしくしく泣き出せり貰ひしびらを何所に落しし》…銀座の夕暮に泣く子の歩みを字余りが律儀に伝えて可笑しい。《君がたびし柿の朱(あけ)色ふかければ信濃の秋を恋しとぞ思ふ》《逆およぎしてはす葉娘と呼ばれたる金魚死ねればすくひ捨てつも》《信濃をとめがくれし山葵もくさりはてつその白砂を洗ひ上げたり》…サカオヨギシテの字余りとシネレバの破格とが呼応する変な心地よさ。2022/06/28

夜間飛行

181
歌の良悪は判らず、心を慰め、愉しませてくれる歌を欲す。《夏の光するどく空にうづまけり崩れ著き十津川の山》《ややしばらく焼山を見て下りけり岩そそぐ水細きよりして》。旅の歌は不思議だ。この集には旅の歌が多く、慣れるにつれて、益々旅の歌に心惹かれて切なくなる。一方で、生活の歌の苦みと可笑しみは心をほぐしてくれる。《ともしき朝水を風呂に汲みつくす水道技師も罷められたらし》上句と下句の危うい連繋から、もしや水道が使えないのではと推測したが、何如。《青だいしやう追ひ込みし崖には線香を立てさせて又昼寝せむ》これも好き。2022/06/21

夜間飛行

175
《二十五菩薩来迎図散華の朱をほめ給ひし左千夫先生目なかひにみゆ》…「二十五菩薩」を取るとほぼ定型になる。蓮の歌群の一首で、次に川の歌群がくる。《わびわびて吾は来にけり草そよぐ堤をこえて光る川水》《秋あつき川の光に据りたる浚渫船は今日休みなり》《築きたる高き堤のゆふかげに落つる江戸川とどろとどろと》…水辺に立つ状況は蓮の歌群と同じだが、作者の視線の先には江戸川がある。「今日休みなり」は何かと何かの合間の特別な時間を思わせ、それと流れゆく川の永遠性が同じ景の中にある。「朱をほめた」師の芸術観とも通じるだろう。2022/06/08

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