内容説明
手芸店・八戸クラフトに勤めて10年の紬は、いろんなことに倦んでいた。仕事、恋愛、人間関係…気にし始めたらキリがないから、すべてに慣れることにした。すべてにフタをしながら生きていけばいいのだ。でも、羊毛フェルト用作業机に残された、タバコの焦げ跡を見つけたとき…30歳、紬の「私を取り戻す」物語。
著者等紹介
〓森美由紀[タカモリミユキ]
青森県出身。地元で勤務しながら創作活動を続ける。2014年『ジャパン・ディグニティ』で第1回暮らしの小説大賞受賞、2017年『花木荘のひとびと』で第84回ノベル大賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ゆみねこ
104
思っていることを中々言葉に出来ない根城紬30歳。手芸店に勤めて10年、意地悪な先輩・クズ男の彼氏・高圧的な母親、あれこれ思い悩み心に蓋をして送る日々。紬の心を癒やすのは羊毛フェルトのぬいぐるみ作り、一人の小学生との出会いをキッカケに生活が変化して行く。これは素敵な1冊、お薦め!2022/05/23
やも
86
羊毛フェルトみたいにふっくら柔らかい話かと勝手に想像してたけど、ちくちくニードルを刺して形作っていくような話だった。とっても好み。いい話。仕事も恋愛もそれなりにため息をつきたくなる事もある。けれどこの主人公の彼女はしっかりしてる、ちゃんと自分と向き合ってる。羊毛フェルトも石垣も似てるね。1つ1つ積み上げて頑丈にしていく。物そのものだけじゃなくて、心の中の何かも。いつか愛おしいセピア色になる今を、皆生きてってるんだなぁと思えた。それにしても豊崎さんの意地の悪さと慎也のだらしなさは、ネタに出来る位すごいぞ!2023/03/16
そら
76
アラサーの紬は自分の意思を伝えられず、半同姓の彼にも都合良く搾取され、勤め先の手芸店でも良いように扱われている。クズの代表のような男に反論せず食事やお金を提供することにイライラするし、職場のクズ店長や先輩にもムカついた。暴力的ではないが、反論出来ない相手を軽んじる好意はたとえ小説であっても気分は良くない。ダラダラとそんな日常を埋めてくれたのは趣味の羊毛フェルト。新たに出会った人たちに支えられ、搾取する相手を断ち切り、自分に自信を持つことに目覚めていく様子にほっとする。羊毛フェルトはかわいくて好き。2022/07/27
しいたけ
73
クソ男が出てくる。いつもだったら小説に先走って脳内でメッタメタにやっつけてやるところだが、何故か穏やかに読み進んだ。八戸が舞台で南部弁にのせて運ばれる物語ゆえかも。30歳の紬が自分らしく居られる生き方にゆっくりとシフトチェンジしていく。このリアリティがクソ男の退場の仕方にも「このくらいで勘弁してやるか」と鷹揚に思わせてくれたのだと思う。「喪失はそれを手に入れたという証」との一文に立ち止まった。感情をしまってある箱が、ほんの少し面積を広げた気がした。2022/12/04
よつば🍀
65
モヤモヤ×2。主人公は手芸店・八戸クラフトに勤めて10年の根城紬・30歳。職場では先輩社員の豊崎さんに日々理不尽な要求をされ、ダメンズ彼氏には良いように利用される。特にこの彼氏の傍若無人ぶりには怒りがMax。とっとと別れれば良いのにと思うが、紬は言いたいことも言わず彼の言うがまま。まるでそれが美徳だと言わんばかりに。モヤモヤとした感情を抱え、毎日をやり過ごす主人公に私がモヤモヤする。心優しい義妹や大好きな羊毛フェルトがきっかけで風向きが変化した時はようやくホッとした。いつかこの彼氏に天罰が下りますように。2022/05/19