内容説明
非情な運命に翻弄されながらも、強く生きていこうとするひとびとの姿が織りなす人生模様…。乙川優三郎「磯波」、諸田玲子「お蝶」、高橋義夫「ははのてがみ」、杉本章子「かくし子」、山本一力「代替わり」の五作に加えて、書き下ろし作品として、佐伯泰英「寒紅おゆう」、鈴木英治「廉之助の鯉」、今井絵美子「今朝の月」の計八篇を収録したオリジナル・アンソロジー。
著者等紹介
結城信孝[ユウキノブタカ]
東京都生まれ。立教大学経済学部卒業。ベースボールマガジン社、内外タイムス社の記者を経て、90年以降フリー。各紙誌上にて評論活動を続ける
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感想・レビュー
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星落秋風五丈原
13
乙川 優三郎「磯波」(「武家用心集」収録)一人の男をめぐっての姉妹の長年に渡る葛藤と解消。五月は姉・奈津を好いていた直之進に妊娠したと嘘をつき、結婚した。しかし10年も結婚しているのに、未だに直之進の心には奈津がいる事に気づいて、奈津に縁談を勧めに来る。遂にずっと聞きたかった事を聞く五月。「あの人、お姉さまとも何かあったんじゃないの。諸田 玲子「お蝶」」(「坐漁の人」収録)2004/08/07
山内正
4
橋の上から百姓舟に客が近寄り野菜を買い岸から離れるのを橋からおゆうは見ていた 紅作り延五郎に弟子入りにと日参し 紅花搾りを三月で覚え二年八月経つ 三条屋の番頭が新しい紅猪口は誰がと聞きに来た 女の職人とは 客がね女の気持ちが行き届いてると 自分の作った紅を買う人がいると 一つ願いが あの紅に格別な名前を 旦那様が寒紅おゆうとして売る 形色合いを工夫して欲しいと 親方に特別に拵えた二つの紅猪口を 一つは白くもう一つは黒の下地 これを三条屋に見せろおゆう 主人が一目みて側の客に差し出す 値はおいくら対で二分と2021/04/25
山内正
4
潮風が丘の家に吹いて、もう十年に いつか後悔すると死んだ父が言った 妹が何度か話合い婿を取った 平穏無事を有難い気持も薄れ老いていく寂しさを思う暮らし いつも不意に来る妹幸せな家庭の匂いを運んで来る 後添えの話をと、今頃になって先走りすぎると 道場の事しかない夫子供の世話は苦労と言い出す 一度だけ二人で話した昔を思い出す やり直せない事は承知しています あの時妹に騙されたと奈津は知る きっとお姉さまより年を取ったから 返事を待ちかね夫は殻の中に今もお姉さまがいます 常夜灯の火が灯り騙しあった姉妹の 和解が2021/01/12
山内正
3
思ったより小柄だ十年前に殺された 父親の敵を刺し町役人に事情を話す 村役人から話をし私闘とし島流しに びょうきになっていませんか 母からの手紙が届く毎年 十年過ぎ三年毎に手紙が かわりはありませぬかと 二十八年島に四十七母は七十四に 明治と改元し天下がひっくり返った 七十数人の流人と船で江戸に 見覚えの顔の中年が歩み寄る 三郎兄ィ!私は息子です父は死にましたおっ母は十三回忌すませたと 遺言で手紙は絶やすなと婆様が 別の世界にいる様に聞えた2021/07/02
山内正
3
二日前家老に呼ばれ土屋直治郎の居場所が分かったとしかも姉もと 斬られた役人の子朔之進に同道とのこと 父惣右衛門は決して助太刀するなと 姉が邪魔をせぬ様に 此度の事保科家には構い無しとなったと言う 父の老いを見て取った これを命じた家老は現役の身父は世捨て人の如くに 何もかも姉のしたことが 農民の為に役人を斬った土屋 その夜妻を知らずに抱く じつの姉を討たんとする男を 女というものはなにを考えてるのかとこ 2019/06/06