出版社内容情報
近代日本の底辺に生きた海外売春婦「からゆきさん」をたずね、その胸深くたたみこまれた異国での体験と心の複雑なひだとをこまやかに聞き出す。底辺女性史の試みに体当りした感動的な大宅賞作品
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ann
49
ここまで詳しく知りえなかった「からゆきさん」の生きた証を突きつけられた。深く考えている。2018/07/30
James Hayashi
35
映画にもなった日本の恥部の一つである“からゆきさん”の歴史を探るルポ。72年初版。大宅壮一ノンフィクション賞受賞。娼婦ゆえの後ろめたさの為か、取材を難しいと思い身分を隠し潜入する著者のプロ意識。すごい取材力。ジャーナリストでない為、取材費も出ないであろうが、ムカデがでる畳に3週間も滞在。閉ざされた彼女たちの胸のうちをこじ開け、近代日本の陰鬱なる歴史を紐解いている。明治時代の話しで生存する人が少ない故、ルポ数は限られているが、貧しさと悲惨さは十分伝わってくる。続く→2019/02/18
みっちゃんondrums
23
からゆきさんだった老女おサキさんの、故郷天草に戻ってからの生活もまた凄絶。百足が巣くう畳のあばら家で、息子からの少ない仕送りのみが頼り。天草の親族は、彼女が娼売で得た金で家まで建てたというのに。それでも、裕福な時もあったり、結婚したり、生きて帰国できた彼女はましだったのか?著者は素性を隠し、おサキさんと生活を共にすることで、からゆきさん時代の話を引き出す。感心できない部分もある著者だが、この記録を残したことはすばらしい。語り口が平易で読みやすかった。おサキさんとの別れの場面では涙した。2018/11/18
Melody_Nelson
6
家にあった本。思いもかけず傑作に遭遇。「からゆきさん」という言葉は聞いたことがあったけれど、具体的には知らなかったので、本書を読み、その歴史的背景を知るだけでなく、当事者の女性たちの生々しい話、筆者の考察に触れ、痛切だった。本書は紀行文のような独特な形式をとっており、結果、それがある種「物語的」であるためか読みやすいので、古い本ではあるが、多くの人に読んでもらいたいと思った。最後のおサキさんの手紙に泣いた。2020/04/27
耀
3
10かそこらで売られて数年後にはお客を取らされたという話はもちろんだけど、天草で生まれ育ったのに魚を食べた事もなければ海で遊んだ事もなかったというおサキさんの境遇には衝撃を受けた。社会の低い位置で学もなく翻弄されながら生きた女の人たち…とても他人事と思えない。しかし著者のそこはかとない上から目線は非常に鼻につく。特にパスポートや写真をくすねるくだり。だけど腐った畳の上で寝食を共にしておサキさんの信頼を得、ひっそりと死んで行ったからゆきさんたちの苦労を世に知らしめた功績はものすごく大きい。2012/11/04