内容説明
恋人との穏やかな日常に、突然生じた疑惑。彼女は自分を裏切り、あの男と愛しあっているのではないだろうか?身を苛む嫉妬。崩壊して行く関係。それでもなお彼女の放つ香りは理性を奪い、「私」を虜にする。そして、白い花の香りをまとったもうひとりの女―。欲望?それとも愛なのか?「香り」を通奏低音に、愛についての張りつめた問いが続く、狂おしく、ピュアな恋愛小説。
著者等紹介
辻仁成[ツジヒトナリ]
1959年東京生。89年『ピアニシモ』ですばる文学賞を受賞。以後、作家・詩人・ミュージシャン・映画監督と、幅広いジャンルで活躍。97年『海峡の光』で芥川賞、99年『白仏』のフランス語翻訳版で、フランスのフェミナ賞/外国小説賞を受賞
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感想・レビュー
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遥かなる想い
134
辻仁成が描く世界には、どこか破滅へと向かう男女が登場すると感じるのは私だけだろうか。主人公テツシはミノリを愛しながらも、政野英二とミノリの将来の不倫に怯え、政野英二の妻早希との関係に陥っていく。物語の中で香りが比較的重要な要素を占めており、香水ではなくミノリの生のにおいに惹かれるところが変に艶っぽい。早希の香りとミノリの香りは対極的だが、この小説の原点は嫉妬であり、嫉妬に怯え嫉妬に狂い、そして破滅していく。だが読んでいて読んでいて誰も憎むことはできないのは作者の周到な罠か…2011/05/29
チャーミー
32
恋人同士のテツシとミノリ。テツシの大学の先輩の政野英二と早希夫妻。仕事のプロジェクトで四人は度々会食をすることになり、ミノリと英二の仲睦まじい様子にテツシは嫉妬しその先を想像してしまう。未来への復讐と都合をつけて早希と関係を持つが、それはいつしか愛に変わってしまう。勘繰り過ぎて本当の愛を見失ってしまうテツシ。ミノリの動物的な香り、早希の官能的な香り、抱き合う度に二人の香りが過去を引き寄せ愛の在処を探して彷徨う。本当の愛はどこにあるのか。人は誰も傷付かず愛することができるのか。心に揺るぎない愛を見つけたい。2019/05/23
ムーミン
31
再読でしたが、途中まで気づきませんでした。「香りには既に人格があり、香りには最初から哲学がある。香りには隠された悪意があり、見え透いた善意がある。香りほど過去を蘇らす魔法を持つものはなく、香りほど未来を疑う毒はない。」P.2902022/02/05
June
25
前半、文章がまわりくどいような気がして面倒くさくなった。だけど、ぐるぐると同じところを彷徨う感じは嫉妬そのものかも。夫の気持ちが他の女へと移ることに怯える妻と、恋人が自分以外の男に惹かれているのではないかと嫉妬する男。その二人の心情に自分の気持ちは載せられなかった。愛するが故の嫉妬と束縛は愛する人を遠ざけていく。しかし、愛されている確信がある時はあまり嫉妬は生まれてこないもの。橋の上ですれ違った老人の言葉が印象に残る。「急いでも到達できる場所は決まっている。ずっと立ち止まっていても、いつかはたどり着く。」2016/02/13
なつ
22
嫉妬と香り。見えない不安を抱えて始まる関係。香りに翻弄されつつ、愛を探していく。香りは驚くほど記憶に残り、いとも簡単に記憶を呼び戻す。でも、愛の定義ってなんでしょうね。男女でも違うだろうし、人それぞれだし。だから交差したりすれ違ったり、重ねようとしたり。でも、少しちらつくナルシズムが残念。2015/08/31