内容説明
自由と民主化を求めての激しい変革の流れのなかで、明日への希望と不安とが交錯する。その深層では、家族への愛、祖国への思いが静かに燃えつづけている。理想を探りつつ悩み、よろこび、悲しむ人々の表情を生き生きと伝える真摯なドキュメント。
目次
1 アテネからブダペストへ
2 子と母のハンガリー語
3 反対制派知識人マリカ
4 トランシルヴァニア農民との出会い
5 ルーマニア国境へ
6 トランシルヴァニアとハンガリー文化
7 美しき都ブダペスト、ウィーン、プラハ
8 ブダの丘とハンガリー料理
9 年金生活者たちの暮らし
10 ゲッレールトの丘の聖人像と女神像
11 ひたすらにノスタルギア
12 ハンガリー改革のはざまで
13 チェロをもらった話
14 ハンガリー人とアジア人
15 夏休みに
16 東欧の哲人政治家マサリク
17 スロヴァキアのハンガリー人
18 ガビおじさんの農場
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
印度 洋一郎
1
研究者である夫に伴い、一家で社会主義政権崩壊前後の1980年代末期にハンガリーに約二年間暮らした女性の滞在記。著者はルーマニア、オーストリア、チェコスロバキア等近隣諸国にも足を伸ばし、一口に「東欧」と称されても、明らかにハンガリーよりも貧しいルーマニアから、整然としてハンガリーよりも豊からしいチェコまで色々。第一次大戦後、領土が分割されて、周辺諸国に住んでいるハンガリー人をルーマニアのトランシルバニアやチェコのスロバキア南部などに訪ねており、統一を願う本国のハンガリー人とは色々意識も違うのが興味深い。2025/07/17
稲吉 捷
0
EUだ、TPPだ、と「地域連携」が喧伝される昨今だが、二十数年前のヨーロッパには「社会主義圏」という共同体があった。本書で描かれるのはいわゆる「東側」、それも東ドイツやユーゴ、チェコスロヴァキアでは無く、マジャールの国・ハンガリーである。社会主義体制崩壊直前のブダペストを舞台に、市井に渦巻く体制への憤り、表面化する民族問題といった東欧の「影」を、著者の巡った美しい風景とともにつまびらかに描き出した名ルポルタージュ。2014/05/16