マウナケア（2019）の本棚

洋書ユヴァル・ノア・ハラリ『ホモ・デウス：テクノロジーとサピエンスの未来』（原書） Homo Deus : 'An intoxicating brew of science, philosophy and futurism' Mail on Sunday

評価なし

欧米エリートたちがベーシック・インカム…

欧米エリートたちがベーシック・インカムを現実問題として検討し始めているというのは確か副島隆彦『余剰の時代』で読んだのだったか…うろ覚えだけれどとにかくその時には他人事として聞き流していた。でも、『ホモ・デウス』を読み終えた今、「人余り」の時代は確かに遠い未来の話ではないと思える。

人余りは、本書では「雇用不可能な人間」＝「無用者階級」の大量発生と表現されている。雇用不可能というのは、仕事が無いことではない。仕事はある。しかし、高度な専門職を含むほとんど全ての仕事がAIによって代替可能になり、さらにその方が人間を使うより余程うまくいくから、人間を雇うことが喩えてみれば幼児を雇うのと同じリスクになってしまうという意味だ。

一歩譲って技術的な面ではそうだとしても、人間味が必要な仕事はAIよりも人間が優れているはずだと思いたいが、これがそうでもない。そもそも人間らしさとは何か。よく聞く本当の自分とか内側の声、あるいは人間らしい気まぐれさえも、生物学的アルゴリズムで説明できる。アルゴリズムがわかれば、AIが正確に人の顔色を読み取ることも可能になる。その時、選択肢は「感情のないロボットか／温かみのある人間の医師か」ではなく、「機械ならではの精度の高い診断を下してくれて、人間の医師以上に忍耐強く、思いやりのある言葉で結果を告げてくれるロボットか／温かみのある人間の医師か」の二つになる。だったらロボットの方がいいかもと思う人は少なくないだろう。長く人間至上主義を標榜してきた人類も、こうしてAIに代表される情報技術に席を譲っていくことになる。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊以下引用＊＊＊＊＊＊＊＊＊
…自動車が馬車に取って代わった時、私たちは馬を改良しはしなかった――馬を引退させた。今こそ人類に同じことをする時なのかもしれない。（p452）
　＊＊＊＊＊＊＊＊＊引用終了＊＊＊＊＊＊＊＊＊

人類の引退。
衝撃ではあるけれどあり得ないことではない、と読めば自然に納得できる。
当代きっての知性が『サピエンス全史』を上回るかの思考実験を行った労作。

電子版あり