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和書サロメ

仕事で忙しくなると思いつつも秋が深まっ…

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仕事で忙しくなると思いつつも秋が深まってからと、あえて読まずにおいていたが、表紙の絵を眺めていたら、ついに誘惑に負け、この面妖な話しに引き込まれてしまった。表紙は、物語の中心人物であるオーブリー・ビアズリーが、オスカー・ワイルドの戯曲「サロメ」のために描いた挿絵の一枚で、The　Climax(頂点)という題名がついているものだ。書店で本書のタイトルと表紙を見た時には、しばらく釘付けになった。そして、ビアズリーとワイルドが登場する小説だとわかり、躊躇なく購入した次第だ。
　ワイルドの戯曲「サロメ」は、新潮文庫『サロメ・ウィンダミア卿夫人の扇』で、学生時代に読んでいる（1976年1月31日）が、その本は廃棄して手元にはない。今思えば、悔やまれる。その時に、口絵でビアズリーの絵にも衝撃をうけた記憶がある。その印象が強かったので、どこかの古書店でビアズリーの作品集（英語版）を購入し、この本は「天」が汚れてはいるが大切にとってある。（因みに、ビザズリーの作品の著作権はすでにきれていると『立花隆の書棚』に書かれている。）
　物語は、現在（20XX年）のロンドンで始まる。日本人でビアズリー研究家の男性とイギリス人でワイルドの女性研究家が、待ち合わせて会うところから始まる。二人のロマンスかと思いきや、読者は、すぐに黒塗りのメージを突き抜けて、19世紀末のフランスへと連れていかれ、その後、最終章までは、ヴィクトリア朝末期の煤に煙ったロンドンと煌びやかなパリを舞台に、史実に基づく描写で、「世紀末」の危うさを目の当たりにすることになる。冒頭の登場人物2名は、単なる前座で、重要な役割は無いようだが、最後に著者の仕かけた企みが明らかになる。そして「闇」が圧倒的な「静寂」で読後感を支配するのだ。中井英夫も書いた「サロメっていうのは…ヨカナーンの首をもとめることになるんだわ」（ヨカナーンの夜）という内容がこの小説でも紹介されており、ワイルドの「サロメ」とビザズリーの挿絵もこの事実を基にしているのだろうが、著者は、おそらく、ビアズリーが依存した漆黒の魔力に魅せられ、誰も想像しなかった展開を思いついたのだろう。
　秋の夜長には、サロメを英文で再読し、ビアズリーが残した他の作品もじっくり眺めようと思っている。月が妖しい夜がいいだろう。サロメが、ユダヤ王ヘロデの王宮で死を賭け、舞い踊った夜だから。

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