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洋書 The Maze of the Enchanter : The Collected Fantasies, Volume 4 (Collected Fantasies of Clark Ashton Smith)

３月に「ロックダウン」という表現が物議…

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３月に「ロックダウン」という表現が物議を醸した時、私は自分が体験した「ロックアウト」を思い出していた。大学２年への進級前の１月、学費値上げによる学生運動でキャンパスが閉鎖されたのだ。後期試験に代わる課題が郵送されてきた。その時期、体調不良で寝込んでいた私は楽な単位取得を喜んだものの、通学できない寂しも味わった。不真面目だった大学生活を反省する機会にもなった。その時、病床で読みふけったのがスミスの翻訳本『魔術師の帝国』だった。SFや幻想小説でもない、古代の地球を舞台にした怪奇譚に畏怖の念を憶えたのと同時に、大学生にもなって翻訳に胸を踊らせている自分が情けなくなった。中学生でSFに出合った時、「原書を英語で読めるようになるために大学へ行く」と決心していたにもかかわらず。
　1893年にカリフォルニア州で生まれた著者クラーク・アシュトン・スミスは独学で語彙を増やし、「しんじられないような世界」を舞台にした数多くの物語を怪奇小説雑誌に書いて読者を堪能させた旨の解説が「後書き」にあった。本書の美しい日本語訳を読みながら、英語の原文が手招きしているのがおぼろげに見えた気がした。異界からの誘いだった。
　春が巡る頃には英語の再学習を日課とした。参考書を抱いて寝ていた。初めて、英語で本を一冊読んだのは大学３年生の秋だった。あれから45年、読書は日本語と英語の二刀流である。スミスの原書は、神保町で古本屋や新刊は紀伊國屋書店で購入し、合計で10冊が書斎に鎮座している。本書はその中の一冊。スミスの英文は、現代の小説家のように流暢な流れにはなっていない。しかしながら、吟味された名詞、動詞、そして修飾語が醸し出すこの世のものではない雰囲気は、心の奥深い所まで容赦なく入り込んでくる。そう、魔法にかかってしまうのだ。米国ではスミスの作品群は読みつがれ、再出版で購入しやすくなってきた。魅了される読者が絶えないからだ。
　1975年の冬、あのロックアウトが無ければ『魔術師の帝国』という書籍を熟読する時期が遅れていただろう。そして、中学生の時に抱いた「夢」は水泡に帰したかもしれない。若い頃から英語が読めるようになったのは、スミスが翻訳を介して私にかけてくれた魔術のおかげだと思っている。それは、今でも解けてはいない。

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