読書という航海の本棚＞長崎、被爆者、平和 - 紀伊國屋書店ウェブストア｜オンライン書店

1 ～ 1件／全1件

洋書スーザン・サザード『ナガサキ核戦争後の人生』（原書） Nagasaki : Life after Nuclear War

長崎は、今の騒ぎが落ち着いたら訪れたい…

コメントを全て表示

長崎は、今の騒ぎが落ち着いたら訪れたい場所である。出島、カズオ・イシグロが通った幼稚園等、目に焼き付けたい場所は多い。そして、長崎訪問の必要性を決定づけたのは本書である。自宅からの距離的な違いもあり、また、常に報道される広島・長崎という語順も影響してか、広島の方が足を運びやすかったのが正直なところだ。ところが、本書を読んで、改めて、被爆地には差異もなければ、序列等は存在しないことが痛感できた。
　著者は米国の女性ノンフィクション作家。16歳の時に横浜に留学生としてやって来た。そして長崎へ旅行した際の原爆資料館での疑似体験が、彼女のその後の人生を大きく変えることになるのだ。
　彼女の平和を愛する心が生き延びた被爆者たちの心を開き、彼等の声は、著者の丁寧な筆致と融合して見事な報告書としてまとめられている。
　原爆投下直後の凄惨な街の様子と人々の叫びは、熱波、痛み、乾き、悲しみ等が五感をとおして読者の心をしめつける。これほどまでの息苦しさを感じた描写は記憶にない。あってはならない事態が、長崎でも起こったことを改めて実感できた。焼死体を乳母車に乗せて運んだ場面では、英文の中でのubagurumaとう単語に涙があふれ出た。放置された死体を食べようと旋回する烏の群れ。地獄絵図が数日続いたことがよく分かる。
　そして、戦後の復興へと章は進んでいくが、ここでも、被爆された人々は、新たな苦しみに遭遇することになる。「偏見」である。そして、被爆者の治療に従事した医者の苦労。不十分な医療体制の下、「柿の葉茶」を飲むことを指示されたとの記述がある。この茶の苦みが、生存者となった被爆者の記憶そのものなのだろう。
　著者は、ニューヨークでの被爆者の講演の言葉を引用する。「平和の基礎は人々が他人の痛みを理解することだ。」この思いは重く、深い。そして深いが故に、国籍、人種、文化、宗教等の表象的な差異を超えて、すべての人の心の奥底に届くメッセージだと思う。

タグ長崎、被爆者、平和

1 ～ 1件／全1件

紀伊國屋書店

読書という航海の本棚

洋書 スーザン・サザード『ナガサキ核戦争後の人生』（原書） Nagasaki : Life after Nuclear War

会員ログイン

洋書スーザン・サザード『ナガサキ核戦争後の人生』（原書） Nagasaki : Life after Nuclear War