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和書都市空間のなかの文学ちくま学芸文庫

生まれ育った東京を、小説の舞台としての…

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生まれ育った東京を、小説の舞台としての「都市空間」として初めて強く意識したのは、2011年５月に久生十蘭の傑作『魔都』（久生十蘭全集Ⅰ三一書房、現在は創元推理文庫で入手可）を読んだ時だった。銀座の服部時計台につるされた死体。日比谷公園の噴水の鶴が歌を唄いはじめたという噂。「東京」を「魔都」と呼ぶようになった背景として犯罪を隠そうとする都市の性格が語られる。祖母が使っていた「省線」が走っていた頃の東京。この読書を契機に、見慣れた東京が一気に異世界に変貌したのだ。
　この『都市空間のなかの文学』は、私の一読書家としての印象を、学術的に補完し、充実させてくれる手引書となった。東京に加えベルリンや上海を描く作品も考察されているのも、視野を拡大させる一助となる。これらの外国の都市と東京との対比も読み取れて、「都市論」のような雰囲気もある。
　十蘭や乱歩のような探偵小説作家の作品は含まれていない。しかしながら、東京で展開される数多くの文学作品の紹介を改めて読むと、多くの作家が、「魔都」という怪しげな空間に魅せられ、酩酊していたのではないかと思えてきた。
　例えば、永井荷風が小石川で過ごした幼少期の記憶をもとに紡いだ『狐』（p157）。山の手の変貌を描いた夏目漱石（p426）。世界に誇る観光地浅草の影を描いた川端康成の『浅草紅団』（p503）等、東京という場所が、生み出したと言える作品が解説されている。（言及された地名は、東京以外も含めて、索引に掲載されているので、観光旅行の視点でも参照できる親切な編集）
　また、家、団地等の居住空間への視点もある。そこに住まう個人、つまり主人公を間取りや部屋から眺めながら、その言動を考察する視点は、身体論や皮膚論でもある。
　1982年の刊行だが、本書に「消費期限」はない。既読の再読も含め、取り上げられて作品は、時間をかけて読んでいこうと思う。と同時に、日常化する「距離感」を描く文学の登場も、遺憾ながら、期待しているところでもある。

タグ都市、文学、魔都

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