読書という航海の本棚＞読書の重み読書、探求心 - 紀伊國屋書店ウェブストア｜オンライン書店

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洋書アルベルト・マングェル著／好奇心に導かれたわが読書遍歴 Curiosity

表題のcuriosityは大好なことば…

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表題のcuriosityは大好なことばの一つだ。2012年の到着以降火星の表面で調査活動を行っているrover（探査機）にも同じ名前がついている。「好奇心」と訳されることが多いが、読書の姿勢を考えると「探求心」のほうが妥当かもしれない。
　目次だけ見ても分からないが、本書は、『神曲』が描く、地獄、煉獄、天国の場面に合わせ、関連する事象について、著者が多年にわたる読書歴で培った知識をもとに、見解を述べていくという体裁だ。
　従って、ダンテの他、案内人である古代ローマの詩人ウェルギリウス（英語表記はVirgil）とダンテの永遠の恋人ベアトリーチェも登場する。『神曲』は高校時代に現代教養文庫『神曲物語』を読んだだけで、きちんとした翻訳を読んでいない。今回、思いがけない形で、『神曲』の暗く、深く、そして高い世界を見られたのは大きな収穫だった。改めて、この世界文学の至宝を原典にちかい形で読みたくなった。
　Curiosityで著者が語るものは、人生の意義に係る事柄である。例えば、こども時代の「少年小説」と「少女小説」という区別の思い出が「性の平等性」の考察へと昇華し、フランス革命の陰で処刑された劇作家オランプ・ド・グージュの主張が紹介される。彼女は「人権宣言」の仏語表記では、女性が見えないという理由で抗議運動を始めたのだ。
　また、拳銃を手にした記憶が、火薬という殺戮兵器の発明、そして原爆を完成させた天才物理学者オッペンハイマーの苦悩へと拡張していく。科学者としての好奇心が、神の領域へ足を踏み入れ、その後の世界を一変させてしまったという悲劇。冒頭で著者が確認していたcuriosityの語源から見えてくる、肯定的と否定的なに二重の意味が、ここで顕著になった。
　その他、「ことば」、「場所」、「名前」、「動物」、「金銭」等、身近な話題に対し、著者の思いがつづられるなか、随所に歴史的人物や文学作品からの引用が散りばめられている。ダンテが創造した世界をめぐる形式で、著者の意識に構築された図書館へ招待されるのだ。
　読書の重みを熟知した著者からは、人が人として生きていくためには、数多の書物を読み、「なぜ」というような正解がない問いに真摯に向かい合うことが重要であることを改めて悟らされた。

タグ読書の重み読書、探求心

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