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和書美少女美術史 - 人々を惑わせる究極の美ちくま学芸文庫

江戸川乱歩の『妖怪博士』（少年探偵団第…

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江戸川乱歩の『妖怪博士』（少年探偵団第3話目、ポプラ文庫）の冒頭に、探偵団員の一人が、怪しげな雰囲気の洋館の中でしばられてさるぐつわをはめられた人形を見つける場面がある。少年が人間と見間違えたのは、それが「目もさめるばかり、はでやかな洋装をした、十六、七歳の絵のように美しい少女」だったからである。乱歩は、「若く魅力的だが無垢で無力な女性が…監禁されるという物語のモチーフ」（『ゴシックの解剖』唐戸信嘉、青土社）を、児童向けに、人形にすり替えたということだろう。
　本書『美少女美術史』の焦点は、当然、描かれた乙女たちである。肖像画、歴史上の女性、そして聖母マリア等、創作の背景は異なるものの、共通するのは、彼女らの眼差しと表情である。「一枚の絵は一千の言葉に相当する」という英語のことわざのとおり、画面では文字化されていない物語に思いを馳せたり、あるいは、妄想を堪能したりするのである。
　父親殺しで斬首されたベアトリーチェ・チェンチの悲しげな様子。天を仰ぐようなジャンヌ・ダルク。美は破壊されるためだけに存在するような印象をもってしまう。歴史は残酷でもある。
　フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」には名前がない。しかしながら、呼びとめられ振り向いた瞬間に何かを言おうとしている姿からは、力強い存在感を感じることができる。背景の漆黒を圧倒している。少女自身が「光」なのだ。
　時間を凍結する写真に囚われた少女も印象深い。『不思議の国のアリス』のもとになった話を作者ルイス・キャロルから直接聞かせてもらった、アリス・リデルである。出版に際し採用されたジョン・テニエルの挿絵に描かれた想像上のアリスは、商品として記号化され、今でも夢の国を楽しんでいるようだが、私にとってのアリスは、撮影当時の白黒の写真に幽閉されたままの姿である。キャロルが残した数多くの少女写真は、芸術的な価値は無いのだろうが、写真が安易にとれる時代だからこそ、短時間であっても、強要された彼女たちのけなげな静止の姿勢を見直してもいいような気がする。
　因みに、キャロルは、自身の日記から推測よると、48歳になった時に、夢中になっていた写真撮影をやめたようだ。1880年である。その年に、28歳になったアリスは結婚している。

タグ美少女、絵画、写真

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