読書という航海の本棚＞絵画論、遠近法、古典 - 紀伊國屋書店ウェブストア｜オンライン書店

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著者との出会いは、大学生時代に読んだ『マニエリスム芸術の世界』（下谷和幸、講談社現代新書）まで遡る。美の定義の引用箇所には、線が引いてある。
　しばらく忘れていた人物だったが、このところ『絵画論』という著書への言及を、複数の書籍で目にしてきた。『遠近法の誕生』（辻茂、朝日新聞社）には、「ルネサンスの遠近法図法に関する論述で、今日に残る最初のものは、1435年に初版が刊行されたアルベルティの『絵画論』である。」との紹介があり、にわかに原著を読みたくなり、紀伊國屋ウェブストアで注文したのが本書である。
　表紙を飾るのは有名な『森の中の狩猟』。高校時代の美術の教科書にも掲載されていたと記憶している。この絵画を選んだのは、もちろん著者本人ではないが、「遠近法」の工夫が一目で分かる作品なので、本書の内容を踏まえ、出版社が選択したのだろう。
　アルベルティという人物は、引用された書籍からの理解では、絵描きというよりも建築家である。本書でも、設計図の意識が活かされていて、点・線・角度等の説明から始まるばかりでなく、図表を見ていくと、あたかも幾何学の解説書であるかのような印象を持つ。
　画面という２次元平面に、立体そして奥行きという３次元空間を創出させるために、物理学的な手法が必要であることを、線と図形を用い、分かりやすく説明してくれている。章立ても単純な三部構成で読みやすい。初心者向けの教科書の体裁だ。
　その中でも、最も印象に残ったのは、具体的な作図技法ではなく、著者の自然への眼差しだった。「自然は自分自身（英語版ではherself）で絵画の中で喜ぶ。」という指摘。人々の暮らしが、大自然に溶け込んでいた時代の思いが伝わってくる。時を経ても本書が評価されているのは、この精神があるからだろう。
　古典の意義が再確認できた一冊だった。

タグ絵画論、遠近法、古典

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