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洋書ウィリアム・モリス『ユ－トピアだより』（原書） News from Nowhere (Oxford World's Classics)

先月『ユートピア文学論』（沼野充義、作…

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先月『ユートピア文学論』（沼野充義、作品社、コメント参照）を読んだ勢いで、「ユートピア文学」の読み損ねてきた作品をあたろうと購入した一冊。岩波文庫の翻訳では『ユートピアだより』（入手困難）となっているが、原題を逐語訳すると「どこにもない場所からの便り」となる。
　「ユートピア」は16世紀に英国の思想家トマス・モアがラテン語の単語を弄ってつくった造語。本書の著者のモリスは、その意味を英語で表記した。つまりnowhereだ。
　物語は、広い意味でＳＦと分類できる未来社会の訪問記。主人公の男性が、ある日、目を覚ますとそこは22世紀のロンドンだった。そこでは、貨幣や学校が廃止され、水がきれいなテムズ川を臨み、幸福に働く人々があふれていた。
　この小説の刊行は1890年。産業革命が暗い影を落とすヴィクトリア朝で、職人によるにモノづくりの理想社会を夢見ていたモリスが、マルクスの『資本論』に感化され、「社会主義同盟」を結成した後に発表した憧れの生活が、主人公の驚愕の目をとおして描かれている。
　未来人との問答も、19世紀末と22世紀の社会制度の差異を理解するのに効果的である。20世紀中頃に英国が経験した大きな変化を振り返る場面では、騒乱、流血、ストライキ等の「革命」を暗示する事件等が出てくるが、記述はあくまでも教科書的で静謐である。
　主人公が自宅のベッドで現実に戻っている場面で、この不思議な体験を振り返り、確かに目にしたものは「dreamではなくvisionだったかもしれない」とつぶやくところでこの寓話は幕を下ろす。
　後者の単語には「視覚」の他に「予見」の意味もある。どうやら、主人公はモリス自身だったようだ。

タグ社会主義、ユートピア

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