読書という航海の本棚＞東京市、江戸川乱歩、明智小五郎 - 紀伊國屋書店ウェブストア｜オンライン書店

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和書乱歩とモダン東京 - 通俗長編の戦略と方法筑摩選書

江戸川乱歩との出会いは、高校１年生の時…

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江戸川乱歩との出会いは、高校１年生の時に講談社文庫の『二銭銅貨・パノラマ等奇談』を読んだ時だ。（当時の講談文庫は、全冊、地味な深緑色のカバーだった）。SFとは異なった不思議な雰囲気や心理描写に魅せられ、講談社版の全集15巻を読破するにいたった。「少年探偵団シリーズ」は、40代になってからポプラ文庫の26冊を楽しんだ。
　乱歩はこれで卒業と思っていたが、出版された研究書は目のつく限り読んできた。本書は、最新のものだ。（2021年３月15日初版）2004年の６月に読んだ『乱歩と東京』（松山巌、ちくま学芸文庫)とほぼ同じ表題で、重複する内容もあるが、視点が異なるので、新たな発見も多かった。
　10代の時に興味を持ったのは、物語の展開とともに明智小五郎の私生活だ。文代さんとの出会いと結婚、そして新婚生活は、詳細な書き込みがなかったが故に、男子校の生徒だったこともあり、羨望の眼差しで妄想を膨らせていた。本書では、当時の未熟な心情を懐かしく思い出すことができた。
　また、明智夫妻の住居として描かれた「お茶ノ水開化アパート」は、後に「日本学生会館」になった「日本文化アパートメント」だったことを『乱歩と東京』で知っていたが、今回は、新たな不動産関係の史料からの考察で、改めて乱歩が執筆していた当時の状況に思いを馳せることができた。ついでに、日本学生会館を利用していた大学生時代の記憶も蘇ってきた。
　副題にある「通俗長編」は、大衆小説で現代を舞台にした作品。個人的には、紋切り型の分類は好きではないので、学術論文的な補足説明には居心地の悪さを少々感じたが、乱歩自身の創作における心の葛藤の原因となった小説の展開技法の一つとして再考すべきとの指摘は、新鮮な論述として興味深く読めた。
　人気（ひとけ）が消え、消灯を余儀なくされた大都会を目の当たりにしたこの２年間。街中にまだ「闇」が存在していた頃の東京を愛してやまなかった乱歩が、この首都のもがく様をみたら、どのような作品を考え出したのだろうか。「モダン」が「今」という意味で心に響く。

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