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洋書ジョ－ン・リンジ－『ピクニック・アット・ハンギングロック』（原書） Picnic at Hanging Rock

年の初めの洋書バーゲンセール。久しぶり…

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年の初めの洋書バーゲンセール。久しぶりにBooks　Kinokuniya　Tokyo　洋書専門店に足を運んで購入した６冊の一冊。面陳されていたので手に取った。店頭ならではの出会いだ。表紙裏の概略を読んで躊躇なく購入し、この連休で読了。大傑作ではないが、記憶の底にこびりつくような不気味な小説だ。
　舞台は独立直前のオーストラリア。時は1900年の２月。世紀末でもありヴィクトリア朝の末期でもある。物語は単純だ。メルボルン郊外の寄宿学校の女子学生たちが、バレンタインデーにハンギングロックと呼ばれる岩山の麓まで遠足にでかける。夏の日の楽しい行事になるはずだったが、許可も得ずに山を登っていった4人のうち３人が戻ってこない。さらに引率の教師一人も行方不明になってしまう。数日後に女子の１人が山中で気絶しているところを発見されるが、彼女は何も覚えていなかった。
　事件なのか事故なのか、最後まで３名の失踪の原因は明かされずに物語は終わる。「マリーセレスト号事件」のように永遠に謎のままだという最後の文章が印象的である。
　この奇怪な展開の背景にあるのが「時間」であることに間違いはない。学校と寮での生活は、時計が告げる時刻で厳密に管理されている。史実を紐解けば、英国のグリニッジにおける時刻が世界の標準時に認定されたのは1884年。南半球のオーストラリアでも適用された。
　ところが、不思議なことに、ピクニックの場所では、教員が携行した時計が機能しなくなってしまったのだ。産業革命がもたらした時間管理が不可能な状況になる。
　山を目指した少女たちは、窮屈な時間に縛られる現実から時間のない異次元へと導かれたのかもしれない。これを暗示するように、失踪した少女の部屋には彼女のドレスやテニスラケットが以前の状態のままで残されていて、そこだけは時間が止まっているようだった。また、発見された少女の体調を診断した医師は「脳の時計が止まったような状態」と言った。
　美しい夏の風景描写や乙女の恋心もつづられてはいるが、学寮での人間模様も赤裸々に語られ、謎が謎を深めていくような不思議な小説だ。

タグ時間、失踪

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