読書という航海の本棚＞批評、思考 - 紀伊國屋書店ウェブストア｜オンライン書店

1 ～ 1件／全1件

和書批評王 - 終わりなき思考のレッスン

表題にある「王」は、書店での存在感を強…

コメントを全て表示

表題にある「王」は、書店での存在感を強調するための編集上の装飾なので気にすることはない。著者自身も、冒頭でこの出版界の戯言に謙虚に言及している。
　重要なのは「批評」である。単純に優劣を評価する意味の言葉が、巷では「批判」の同義語として使われてしまっているという印象をもっている。両者とも「品定め」の視点は同じなのだが、後者は、劣っている点をあぶりだす姿勢だ。
　中立であるはずの「批評」が、後者の範疇に引きずり込まれていくのは、おそらく、人の心理に、他人をほめるよりも、あげつらうことに快感を覚える回路が埋め込まれているからだろうと勝手に思っている。
　日々の報道が取り上げるのは、「悪人」が引き起こす「事件」が多い。庶民の小さな親切行為などは、ほとんど注目されない。つまり、ニュースとしての価値がないという判断だ。
　本書を手にとったのは、テレビ、新聞、週刊誌、インターネットで無秩序に暴露される社会現象に対する意見や解説等を、より客観的に俯瞰する視線を再確認したかったからだ。偶然に撮影された現場の写真や動画も、必ずしも真実を伝えているとは限らない。取材から得られた記述を加えての立体的な解釈が必要だろう。
　この本では、著者が見てきた思想、文芸、映画、音楽、演劇などについて書き留められた78編の批評が６章に分類されて収録されている。「初出一覧」は、日本の少し前を覗く窓としても興味深い。再掲にあたって、時系列で編集されなかったのはよかったと思う。
　社会自体を切る内容ではないが、石川淳の文体を考察する件からも分かるように、「思考のレッスン」をとおし、考え方を再考するための有益な視座が提供されている。
　巻末で著者は自分の「批評の国の王」だったと吐露している。卒業を宣言されてはいるが、今後は猫の手でも借りて「批評狂」に変身することを期待したい。

タグ批評、思考

1 ～ 1件／全1件

紀伊國屋書店

読書という航海の本棚

和書 批評王 - 終わりなき思考のレッスン

会員ログイン

和書批評王 - 終わりなき思考のレッスン