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和書白い病岩波文庫

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本篇の存在を知ったのは、学生時代に読んだ『世界のＳＦ文学総解説』（自由国民社）のカレル・チャペックの紹介欄に、戯曲としてその名前を見つけた時だ。『山椒魚戦争』は楽しく読んだが、戯曲という分野には関心がなかったことがあり、書店で「白い病気」なる作品を探そうとも思わなかった。
　ところが、昨年からの騒動の中で、本書が注目を浴びるようになった。書店で奥付を見た時には驚いた。2020年９月15日が初版だ。つまり、緊急出版のような雰囲気を感じた次第だ。
　邦題は『白い病』。劇中で、新たな感染症が中国由来であることが語られる。中国では「白は死の色」である。（『ワタシNOイエ』荒俣宏、角川ホラー文庫）一方、ヨーロッパでは「再生を意味する」（『黒い錬金術』種村季弘、白水社）著者は、中世の黒死病との色彩的な対比の他に、記号としての「白」を病気の特徴にしたのだろう。
　この架空の病気では50歳前後の患者が死亡する。つまり、人間の寿命が50歳になるという想定だ。その背景にはマルサスの『人口論』があると思われる。永続的な人口増加は、長期的に見ると「感染爆発」以上の脅威になることを暗示していることも見逃せない。ダン・ブラウンの『インフェルノ』を思い出した。
　感染症に世界中の人々が苦しんでいる今、1937年刊行の作品が再評価される状況もよく分かる。しかしながら、我々は、この戯曲が書かれた時代背景も忘れてはならない。忍び寄る戦争への恐怖だ。チャペックが訴えたかったのは、政府による正義の名のもとの交戦権である。
　「戦争万歳」の連呼で幕を閉じるこの演劇は、まさに「茶番」。「茶番」だからこそ、21世紀の今、改めて、読む必要がある気がしている。疫病による死者数の集計は、数値として日々報道されるにもかかわらず、紛争による統計的な死者数は一般向けには視覚化されていないようだ。
　医療従事者への感謝で演じられた大空での演舞。平和の祭典を盛り上げる会場上空での演技。この天使達を堕天使にしてはいけないのだ。

タグ戦争、人口爆発

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