読書という航海の本棚＞小布施、北斎、ジャポニズム - 紀伊國屋書店ウェブストア｜オンライン書店

1 ～ 1件／全1件

電子版あり

和書知られざる北斎

先月、小布施へ足を運んだ。目的は、栗菓…

コメントを全て表示

先月、小布施へ足を運んだ。目的は、栗菓子を味わう以上に晩年の北斎の姿と作品を見るためだった。この長野県の小さな街と欧米人も魅了し続けてきた江戸時代の偉大な絵師との接点を知ったのは、昨年の御開帳の機会に善光寺を参拝した時だ。小布施まで行く時間的な余裕はなかったが、観光案内所で入手した小布施の観光案内図の中央に「北斎館」を見つけたのだ。
　本書は、その「北斎館」の売店で手にとった。帰宅後にウェブ紀伊國屋で発注し、有意義だった旅行の復習の意味で購入し、熟読した。数多い北斎関係の書籍で、本書を選んだのは、小布施の豪商だった高井鴻山と北斎との運命的な出会いが書かれているからだ。
　この商人は知識人でもあった。「北斎館」に隣接する「高井鴻山記念館」では、佐久間象山と囲んだと言われる火鉢が展示してあった。この若き文化人の審美眼と熱心な招待がなければ、北斎の４回に及ぶ小布施滞在はあり得なかったのだ。
　そして、北斎の集大成である岩松院の「八方睨み鳳凰図」。この肉筆画についても、著者は丁寧な取材をもとに、一般的な北斎の案内書では知りえない逸話を紹介している。
　さらに、江戸から小布施まで往復約500キロの徒歩の旅について、北斎が後期高齢者の年齢に達していたということに驚く現代人の先入観を、当時の飛脚の脚力を引用しながら、見事に払拭してくれる。高齢化社会に向けて「二足歩行」の重要性を諭すような件だ。
　ジャポニズムの潮流の中の北斎から始まり、北斎の眼差しから未来へ目を向ける流れで本書は幕を下ろす。巻末に向けて、著者が強調したのは、北斎の作品からにじみ出る「共生や共感」。この視点は、哲学者中村雄二郎が『共通感覚論』（岩波書店、コメント参照）で論述した内容そのものである。
　本書には余計な図や写真が無いのがよい。文字情報のみで、北斎の生きざまと作品から、この芸術家に関わった多くの人々が、「絵」をとおして時空間を超えて繋がれてきた姿を物語風にまとめた文化史でもある。北斎の娘（葛飾応為）も小布施に来ていたことを知った。
　私を見下ろした「八方睨み鳳凰図」は北斎の眼光であり、よりよい未来へ導いてくれる灯だということが再確認できた。
　蛇足だが、小布施での絶品の甘味は「モンブラン」よりも、北斎も舌鼓を打ったかもしれない「栗あんしるこ」だった。

タグ小布施、北斎、ジャポニズム

1 ～ 1件／全1件

【6/9更新】miffy & books ウェブストア品切グッズ

紀伊國屋書店

読書という航海の本棚

和書 知られざる北斎

会員ログイン

和書知られざる北斎