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和書楢山節考／東北の神武たち中公文庫

姥捨て山の伝説については、充分にありえ…

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姥捨て山の伝説については、充分にありえた話と思いながらも、民話として理解してきた。例えば、水木しげるの『遠野物語』（小学館）にも「姨捨て小屋」の描写がある。遠野へ足を運んだ際に購入した漫画で、妖怪物語の範疇で読んだ記憶がある。
　したがって、「楢山節考」は、その概略を若い頃から知ってはいたが、読みたいとは思ってもみなかった。三島由紀夫が驚愕した作品であることを知るまでは。
　『幻想小説とはなにか』（平凡社ライブラリー）の中で、三島は、この小説を中央公論新人賞の受賞作として推すにあたって、「読後のいいしれぬ不快感」がアーサー・C・クラークの『幼年期の終り』のそれと共通する点で傑作である旨の記述をしている。この比喩に感化され、近々の読書計画に入れた次第だ。
　さらに、年齢的に、死と対峙しなければならない時期を迎え、人生の消費期限は他人事ではなくなったこともあり、読んでみたくなったのだ。古い作品ながら、文庫として再版されてきたので、容易に入手できたのは幸いだった。
　作品以上の収穫は、「新人賞選考後評」として、三島と伊藤整、武田泰淳の３人の対談が掲載されていることだ。ここで、あらためて、発表当時の衝撃と評価がよく分かる。文学作品としての価値は、令和になっても色あせてはいない。
　物語は単純だ。老いた人間を、自然死の前に、70歳になったら、この世からあの世へ旅立たせる展開だ。民話といいながらも、山間の村では、実際にあった習慣なのだろう。
　この作品は、死様を淡々と素朴に描写する。老いたら自らの足で山へ登り、命を全うする。この慣習は、舞台の村では日常生活の一部なのだ。ある老婆の死出の旅への準備が静かに描かれていく。
　しかし、結末の場面は騒がしい。死を迎える老人にとっては「吉」である降り始めた雪の白さと、生きるために死体を啄もうとする鴉の群れの黒が、空中で混ざりあう。
　この魂と死神のせめぎあいの乱舞を背景に、「楢山節」の歌が連なる山にこだまするのである。

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