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洋書エーコ著／中世の芸術と美（英訳） Art and Beauty in the Middle Ages

著者は映画化されたベストセラー『薔薇の…

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著者は映画化されたベストセラー『薔薇の名前』の著者。小説家でもあり記号学の研究者でもある。原著はイタリア語のため翻訳を読むしかない。
　英訳版を選ぶのは価格が安いばかりでない。著者が頻繁に引用するラテン語が英語では斜体字で浮かび上がるからだ。冒頭で、翻訳者はこの古典語の扱いに註釈している。
　邦訳『中世の美学』（慶應義塾大学出版会）を見ていないので分からないが、日本語ではその雰囲気が消えてしまうのではないかと推測する。あるいは、カタカナ表記されるのかもしれない。
　英語版の表題を見るとArt　＆　Beauty　in　the　Middle　Agesとあるので「中世の美術史」のような印象をうけるが、中世の闇という先入観で隠されてきた当時の「美意識」に光を当てた内容で、哲学史の範疇に分類すべき内容だ。
　五感で人生を謳歌することを拒み、禁欲的な生活を過していたという中世観は誤解だったという刺激的な第１章の著述で本書は始まる。結論にあるように、この時代にルネサンスの精神がすでに萌芽していたのだろう。
　13世紀のイタリアの神学者トマス・アクィナスの著作と思想を振り返りながら（20ヵ所以上で言及される）、「文芸」の核となる「美」を多角的に分析していく。その眼差しは、音楽、文学や芸術にも注がれる。
　最初の発表（1959年）から半世紀以上たったものの、その内容の重要性は劣化してはいない。容易に「美しいもの」が制作され、それが安易に複製される今だからこそ、不便な時代に考えられ、培われ、そして具現化した感性としての美意識へ回帰しようとする本書は、再評価されるべきだと強く感じた。（入手したのは2002年版）
　カバーの絵はその隠喩だろう。心地よい読後感が待っていた。　

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