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和書従妹ベット〈上巻〉新潮文庫

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私はこれが初めて読んだバルザック作品だ…

私はこれが初めて読んだバルザック作品だったのですが、衝撃を受けました。マルネフ夫人という美人が男爵家その他の家庭を徹底的に破壊しつくしていきます。もちろん美人ですが、彼女に「男爵はうぬぼれやだからうぶなふりをするといい」とか「あの香水商は貴婦人と付き合いたがっているから身分の高さを強調するといい」とか教えている人がいて、それが「従妹ベット」です。
　彼女は従妹が農民の出でありながら、男爵夫人になったことをねたんでおり、自分も男爵くらいと結婚すべきだと考えています。一家はずいぶんこの老女に親切にしているつもりでも、この内職で暮らしている老女にはいちいちが侮辱と受け取られています。そして、自分がこっそり世話をして貯金もはたいて援助していた芸術家を奪い取られて、復讐の鬼になります。
　そして対照的なのが、男爵夫人で、彼女は夫にどこまでも貞淑、家庭を守ることを第一に考え、男爵が破滅しそうになった時でも彼についていこうとして、男爵の兄の元帥は「この人に似た人を嫁に欲しい」と思ったばっかりに一生独身で終わったという、誰からも尊敬を受ける人。ただし夫からは尊敬はされてもないがしろにされています。
　細かいお金の収支がいちいち語られ、ただしこの時代の「１フラン」っていくらか見当がつかないのですが、１０万フランって１億円くらいでしょうか？それがなんともリアリティーがあります。
　それに表現がすばらしいです。
　「追い詰められたパリ女に２４時間与えてみるといい。彼女は内閣さえも倒すに違いないのだ。」
　バルザックにしか書けない表現です。他のどんな国のどんな作家も、たぶんこれからも、こんな風に女性のことを表現できない、天才的な言い回しが目白押しです。
　私は「ウージェニー・グランデ」も好きです。これは吝嗇の父親のもとで育った娘が、父の厳しい倹約精神のもとでもなんとか従兄の青年に対する愛を貫こうとする話。（でも従兄の方はあてにならない。ちゃんと報いを受けますが。）
　不倫報道をついつい見てしまうという方にはおすすめです。すごい誘惑術と破滅までが上下２冊の間に見られます。

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