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和書われら岩波文庫

本書の存在は高校生の時に知った。『世界…

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本書の存在は高校生の時に知った。『世界のSF文学総解説（1978年版）』（自由国民社）では２頁にわたって粗筋等の紹介があった。いわゆる反ユートピア小説だ。この作品は、1921年に完成したものの、当時のソ連では、その内容が故に発禁となり、本国ではペレストロイカ後の1988年になってようやく出版されたという曰つきの小説である。
　宇宙船の建造というSF的な設定にもかかわらず、スペースオペラにはまっていた高校生の私は、本書を手にとることはなかった。上記の概略を読んで、単純に読みたいとは思わなかったからだ。
　『われら』は実に暗い本である。機械的な描写は冷たい。登場人は記号で呼ばれている。動きはあるが生命の躍動感はない。このような管理社会の未来を暗示する記載を、当時のソ連政府が容認しなかったのも理解できる。
　今になってこの物語を紐解いたのは、少年の頃、夢見ていた明るい21世紀のメッキが剥がれ落ち、醜悪な様相を露呈し始めていることに気づいたからだ。統制を強化しようとする国家は、自由という理想を求める民衆の「乱」を鎮静化しようとし、原始的な「力」を誇示することになる。
　光文社古典新訳文庫では新訳もあるが、岩波文庫を選択したのは、翻訳をしたのが『ユートピアの幻想』（講談社学術文庫）を書いた川端香男里だったからである。この翻訳者は、この自著の中で『われら』を「否定的ユートピア」のくくりで解説している。
　現在の混乱の世の中で、このような悲観的な物語を読んで気が滅入ると思いきや、思わぬ発見でたまらなく楽しくなってしまった。翻訳者は、川端康成の養女と結婚したロシア文学者で、美術史の研究家若桑みどりの実兄でもあったという事実が、ウィキペディアに掲載されていた。少なくとも、日本では「知る自由」は守られているようだ。書物という知のネットワークが、人によって構築されていることが嬉しくなったのだ。
　ロシア語はわからないが、『われら』の英訳版の表題はWe、つまり主格である。著者からのメッセージは、権力に押しつぶされる目的格としての「われら」ではなく、将来に向けて適切な動作を導く主語としての「われら」に期待するということだと解釈してみた。
　この健全な「われら」の一員になれるよう、真摯に読書を続けようと思う。

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