読書という航海の本棚＞シンデレラ、神話、幻覚 - 紀伊國屋書店ウェブストア｜オンライン書店

1 ～ 1件／全1件

電子版あり

和書人類最古の哲学講談社選書メチエ

カイエ・ソバージュと副題がついた５分冊…

コメントを全て表示

カイエ・ソバージュと副題がついた５分冊の探究書の１冊目。カイエは仏語で「ノート」、ソバージュからは、女性の髪形を連想してしまうのだが、その綴りのsauvageをみると、英語のsavageが見えてくるので「野生の」という意味だと見当がつく。つまり５冊の「野生のノート」になる。
　背景には、フランスの人類学者レヴィ＝ストロースの『野生の思考』がある。しかし不勉強で未読。単純に「最古の哲学」という表題にひかれて手に取った。
　大学の「比較宗教論」の講義の再現という形式だ。本書では思想史を掘り下げる前段として、無垢な古代人たちが口承で伝えた「神話」の分析を試みている。
　身近な具体的事例として、有名な「シンデレラ」について、世界各地に分散する酷似の物語に焦点を当て、「原シンデレラ」という枠組みで「シンデレラは人類的な神話」であることを考察している。授業らしく、視覚教材としてグリムとペローのシンデレラの相違を図表化しているので、理解しやすい。
　この着眼点は、以前、アメリカ人からもらったRetellings:　A　Thematic　Literature　Anthologyにも同じようなことが書いてあったと思い出した。1500頁で2kgもあるこの大著は、完読できずに書棚の一番下に隠れたままだ。
　本書では、脱げた片方の靴への記述もあり、全体の大きな流れにのれなくても、「シンデレラ」という現象の、地域的、文化的、あるいは歴史的な比較という内容だけに絞っても、一読の価値はあると思う。
　講義は始まったばかりで、著者の企ての深部には到達していない。随所に引用されている他の研究書や報告等を整理したうえで、２冊目に進もうと思う。
　巻末では幻覚作用を起こすといわれる「ベニテングダケ」が、神話との関連で紹介されている。この視点は、『神々の指紋』で有名になったグラハム・ハンコックが2005年に発表したSupernaturalにつながるような気がした。中沢もハンコックも1950年生まれだ。偶然の一致だろうが、奇妙な因縁を感じてしまう。
　次の巻を読み始める前に、「魅惑的な自然の誘惑である幻覚作用」を疑似的に体験せよとの暗示を読みとったのは論外だろうか。

タグシンデレラ、神話、幻覚

1 ～ 1件／全1件

紀伊國屋書店

読書という航海の本棚

和書 人類最古の哲学 講談社選書メチエ

会員ログイン

和書人類最古の哲学講談社選書メチエ