この本は19世紀英国の美術評論家であるジョン・ラスキンの著書だが、On Art and Lifeという表題で、ラスキンは本を出版したことはない。ペンギンブックスが、後世への影響力が大きかった作品等をまとめたGreat Ideasというシリーズの15冊目として2004年に出版したのが本書。収録されたのは2編。 新宿のBooks Kinokuniya Tokyoで手に取った時、一編のThe Nature of Gothicは、今年の5月に読んだThe Stones of Veniceで読んだことを思い出したが(コメント参照)、もう一遍のThe Work of Ironを読みたくて購入した次第。 結果的に、「ゴシックの本質」は復習した形になったが、改めて、ラスキンの理路整然としながらも、美術家としての比喩等に魅せられて再読した。再掲に際し、原典にあった数枚の図は削除されてしまったが、文字情報だけで理解できる内容なので、大きな問題はないと感じた。 「鉄の仕事」は産業革命を目の当たりにしてきたラスキンならではの論述が光る。1858年2月の講演の原稿である。鉄の力強さがと自然にはない美しさが、ヴィクトリア朝英国の産業と生活の繁栄を推し進めた原動力だったことがよく分かる。 講演会が開催された街に少年時代に来たことがあるとの回顧も冒頭に引用し、大量生産を嫌悪しながらも、金属の効用を客観的に述べようとする姿勢からラスキンの真面目な性格が感じられた。 当時の就労観については「仕事自体に楽しみがないが故に富が享楽になっている」と断言しているのは、今の日本の状況を聞くようでもある。