読書という航海の本棚＞みぞ、怯み、人工知能、太陽 - 紀伊國屋書店ウェブストア｜オンライン書店

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洋書カズオ・イシグロ『クララとお日さま』（原書） Klara and the Sun : The Times and Sunday Times Book of the Year （Export - Airside）

著者のノーベル文学賞受賞（2017年）…

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著者のノーベル文学賞受賞（2017年）の評価をウィキペディアで再確認した。…has　uncovered　the　abyss　beneath　our　illusory　sense…（我々がもつ錯覚を起こすような感覚の下にある深い裂け目の覆いをとった）とある。イシグロの作品では、読者は眼下に底なしの穴を見て、怯むことになるのだ。本書でも、その穏やかな表題からは想定できない「怯み」を体験させられる。
　Klaraは少女型ロボット。観察力にすぐれ、Artificial　Friend（人工友人）として、ある少女Josieに気に入られ、購入されて一緒に生活し始める。そしてクララは、親子関係、友人関係、大人の男女関係の軋轢を目の当たりにしていく。
　この物語での主題は、来るべき社会での人と人工知能との間にある「溝」である。クララは「機械」と蔑まれ「仕事が奪われる」と言われたり、「劇場の座席を占領しないで」と警告されたりする場面にも遭遇する。19世紀初頭のラッダイト運動の再現のようだ。
　子育てや教育での格差も目撃する。遺伝子操作で向上できる子(lifted)とそうでない子で学歴に差異が生じるのだ。Josieの友人で隣に住むRickはliftedされていないことで母親は悩んでいる。
　舞台の米国社会での人種差別の姿勢が厳しく追及される場面もある。fascism　という物騒な単語も出てくる。Klaraの日常でも階級意識らしきものが垣間見える。いや、聞こえてくる。Josieの家で働く家政婦の話す英語には文法的な誤りがあり、Klaraが使う丁寧で分かりやすい表現と対比される。『風と共に去りぬ』でスカーレットと彼女を助ける使用人女性との会話を思い出した。
　Klaraのエネルギー源である太陽が，もう一人の主役となる。彼女からHeと呼ばれ、神のような位置づけだ。しかしながら、街には太陽光を遮断する装置も設置されていて、どうやら強くなった紫外線が弊害となっているようなのだ。まぶしさの中に環境問題の影がある。
　しかしながら、この日の光が体調を崩していたJosieを最後に救うことになる。朝日の力だ。日の出を前向きな寓意に用いたのは、著者の体には日本人の血が流れているからだと感じた。
　この物語では、朝日が深淵な夜の闇への「怯み」を取り除いてくれる。

タグみぞ、怯み、人工知能、太陽

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洋書 カズオ・イシグロ『クララとお日さま』（原書） Klara and the Sun : The Times and Sunday Times Book of the Year （Export - Airside）

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