彼岸を過ぎると、この本を手に取りたくなる。ブラッドベリは古い時代の作家だが、多くの作品は、今でも版を重ね容易に入手することができる。本書も例外ではない。日本語版の『10月はたそがれの国』も初版は1965年だが新本で購入が可能だ。 原著(1955年)の表題には「たそがれ」」の文字はない。夕暮れ時にふと感じる「不安」を醸し出すための翻訳上の工夫だろう。英語では、そのような小細工は必要ではない。 ハロウィーンをひかえたこの月は、不吉なことが起こる時期なのだ。ジャック・フィニーのThe Body Snatchers『盗まれた街』の事件は10月から始まる。スティーブン・キングのUnder the Domeでは、街が正体不明の空からの幕で遮断されるのが10月21日。 ブラッドベリは、この月の特別な意味を、冒頭で記述している。そして、読者は、奇妙な国に足を踏み入れさまようことになる。 米国の怪奇・幻想TV番組のThe Twilight Zone (1959~1964)は、この短編集を意識して作成されたように思う。秋の夜長に、異世界を堪能できる絶品を収録した作品集である。