昨年(2023年)の6月にペーパーバック版が出たのですぐに購入。年末から読み始め、ようやく読み終えた。時間がかかったのは、多忙だったせいもあるが、キングには先を急ぎたくなる作品(page turner)が多いなかで、この長編は、じっくりと読む展開になっているように感じたからだ。しかしながら、頁をめくる際のもどかしさは無かった。 表題を教科書的に訳すと「おとぎ話」になるが、古くから伝わる伝承と解釈したほうがいいと思う。最後の「後日談」は、once upon a timeの引用で幕を下ろす。 これは、天才作家キングが紡いだ現代版の「昔話」。主人公の青年の成長の物語でもある。少年の時の母親の交通事故死を回想する場面では「仮定法過去完了」の文章が痛々しい。突然の悲劇を乗り越え、息子としてアルコールに逃避を求めた父親を思いやる姿勢は、現世界への「帰還」まで変わることがない。 大けがをした近所の老人を救うことがきっかけで足を踏み入れた異世界での冒険。主人公に同伴する老人の飼い犬も愛らしく名脇役である。 随所に現れるクトルゥフ神話の影。多元宇宙論を背景に描かれるもう一つの世界。世界各地に残る言い伝えは史実以上に真実だったのかもしれないと、民間伝承の重みを考え直したくなる読後感。taleは決して「でまかせ」を伝えるものではないのだ。