書店現場マネジャーの本棚

新・ローマ帝国衰亡史岩波新書

事前の新刊案内情報ではそれほどマークし…

コメントを全て表示

事前の新刊案内情報ではそれほどマークしていなかったのに、いざ発売されるとじわじわと売れ始め結果新刊台の中央を勝ち取る、時折そんな書籍が現れます。本書も同様の経緯を辿り、売上が急角度で上昇中、なみいる強豪を抑えて新書ランキングtop3に入らんとする勢いです。
後出しジャンケンながらヒットの原因を考えたのですが、以下の3つが挙げられると思います。
・『テルマエロマエ』の大ヒット。
これこそ発売前には気づきませんでしたが、ローマ帝国・ローマ時代に対する世間の関心は、同コミックのヒット前より格段に高まったと推測できます。
・「ビジネスパーソンの人文欲」への訴求
特に3〜50代にかけての、特に男性においては恒常的に「一般教養(まさにリベラルアーツ)」、取り分け歴史・宗教に対する好奇心が存在する、というのが私の持論です(これを勝手に上記のように「ビジネスパーソンの人文欲」と呼んでいるわけです)。今も『もういちど読む山川世界史』(日本史・近現代史も)がヒット中ですし、ほとんど定期的にベストセラーが生まれると言っても過言ではありません。
・タイトル付け
世間的にギボンの『ローマ帝国衰亡史』の認知度がどれ位あるのかはわかりませんが、本書のタイトルとしてひねらずストレートに冠したのは、非常に大きな要因だったと思います。ローマと言えば、カエサル・アウグストゥス・パックスロマーナ、辺りの精強なイメージが強いですが、それとは対照的な「衰亡」というワードにロマンを感じるのは私だけではないのでは？実際ギボンの『ローマ帝国衰亡史』もなにかのフェアに混ぜ込んだりすると(文庫とは言え10巻！)、いつも非常によく動きます。
以上、当書籍のヒットをあたかも所与の要因に依るように書きましたが、内容も非常に刺激的でした。ギボンの影響でしょうか、ローマ帝国は衰退期も非常に長い印象を持っていたのですが、「わずか30年程度の期間で劇的の瓦解した」という解釈は新鮮でしたし、「民族という概念は近代的なものではあるが、ローマの民族性というようなものに拘りを見せたことが衰退の大きな原因」という切口には深く考えさせられました。
まさに間欠的に現れる「人文欲」を満たすに足る一冊と言えます。
(2013.6.11)

人文　歴史　新書　紙の本　今売れてます

関連ページへ

ビッグデータの覇者たち講談社現代新書

すっかりバズワードとなった「ビッグデー…

コメントを全て表示

経営　統計　新書　電子書籍　今売れてます

関連ページへ

ＲＡＩＬ　ＷＡＲＳ！ - 日本國有鉄道公安隊創芸社クリア文庫

突然のラノベチョイスですが、ただいま札…

コメントを全て表示

ブックフェア　文庫　電子書籍　フィクション

関連ページへ

経営センスの論理新潮新書

言わずとしれた大ヒット経営書『ストーリ…

コメントを全て表示

新書　紙の本　経営

関連ページへ

ヤバい経営学 - 世界のビジネスで行われている不都合な真実

「お、あの『ヤバイ経済学』の続編が出た…

コメントを全て表示

経営　ビジネス　統計　電子書籍

関連ページへ

なめらかな社会とその敵 - ＰＩＣＳＹ・分人民主主義・構成的社会契約論

人文・社会書がセールス面で苦戦するよう…

コメントを全て表示

人文・社会書がセールス面で苦戦するようになってから久しくなりますが、その逆風の中で、目覚ましく売れているのが本書。販売部数のみならず、新聞・雑誌の書評やネットで大きな話題を呼んでおり、版元の勁草書房いわく、「浅田彰さんの『構造と力』以来の反響の大きさ」とのこと。
確かに、読中、主題のスケールの大きさと革新性に知的好奇心を刺激され続け、読後に「世界観が変わる」ほどの影響を受けたと言っても過言ではありません。
本書の主題とは、「【膜】と【核】という2つの社会現象」(=「国家と国境」「貨幣と資本」などの囲い込みを志向する静的な社会システム)をインターネット(【網】)によってどのように打ち破り、「なめらかな社会」を達成することができるかを考察する、というもの。
上記の主題が、それぞれ「経済・政治(政策)・国家・軍事」などの相により考察されるのですが、特に経済の相における「新しい貨幣制度(PICSY)」と政策の相における「文人民主主義(Divicracy)」という独創的なシステムの構想には、まさに蒙を啓かれる思いです。
本書にはしばしば数式が登場しますが、苦手な方は読みとばしましょう(断言w)。それでも論旨は十分に理解できます。
本書に感動した結果、店頭でブックフェアを企画してしまいました(数少ない書店員の役得です)。ブログ上で、本書に対する的確な論評をエントリされていた東京大学大学院の下西風澄さんの全面ご協力を仰ぎ、「『なめらかな社会とその敵』をもっと理解するための10冊。」と題して開催しています（2013年5月現在）。
弊社サイトにて選書リストと下西さんのコメントをアップしていますので、興味を持った方は是非ご覧ください。→
http://www.kinokuniya.co.jp/contents/pc/store/Shinjuku-South-Store/20130407175706.html

人文　社会　紙の本　ブックフェア

関連ページへ