内容説明
個人の自由は,エゴイズムと何が違うのか.人間は,いかにして公共的になりうるのか.暴力と権威主義が世界に満ちるとき,私たちは何度でもこの問いに答えなければならない.利己主義による腐敗を乗り越えるため,「共感」の可能性を深く追求した一八世紀イギリスの思想的格闘を読み解き,現代の危機に向きあう視座を探る.
目次
序章 「エゴイスト」の思想史を超えて──本書のねらい
第一章 「利己心」対「利他心」──文明社会と「共感」
第1節 「共感」論争のはじまり
第2節 「利己心」論争の展開
第3節 フランシス・ハチソン
第二章 「共感」から「正義」へ──デイヴィッド・ヒューム
第1節 哲学と実践の統一──経験主義への道
第2節 「道徳感覚」のジレンマ
第3節 「徳」の本質と起源
第4節 「公益」への「共感」とは何か
第三章 「共感」の再発見──アダム・スミスの出発
第1節 「劇場」から「市場」へ──「観察者」と「行為者」
第2節 「共感の喜び」と道徳判断
第3節 文明社会における「利己心」と「共感」
第4節 野心・虚栄心・共感──市場経済の両義性
第四章 「共感」から「祖国愛」へ──アダム・スミスの革新
第1節 「共感」と「正義」──法と道徳の緊張
第2節 この世の不条理をどう受け入れるか──宗教と迷信
第3節 真の「徳」とは何か
第4節 「共感」から「祖国愛」へ
終章 「共感」論と現代
参考文献
あとがき
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ラウリスタ~
15
岩波新書にしてはかなり専門的な議論という印象がある。ついていけなかった部分が多かった。個人の利己的な利益追求が結果的に社会全体を発展させるというホモ・エコノミクス的な思想が、近代以降の主流だったが、本書はその裏にある「共感」の思想史を紐解いていく。そのため、ホッブズや、ルソーなど馴染みの名前も出てくるが、スコットランド中心(ヒューム、アダム・スミス)で歴史が語られるので、慣れていないこともあり脱落気味。2026/06/25
たか
10
難解な文ではなかったが、語の用法に非常繊細である結果カギカッコだらけの文章になっており、予想以上に読むのに難儀した。一方にマンデヴィル的な利己心の体系があり、反対側にハチソン的な利他心があるが、その間を説明する概念としての「共感」がヒューム→スミスの系譜で論じられていることがわかった。スミスの正義論と、その通りにはいかない現実の不条理を受け止めるための宗教という話も面白かった。祖国愛は大事だが、それも行き過ぎると倒錯的偏愛になる。身近な人への自然な共感をもちつつ、他者への共感を広げるバランス感覚が重要。2026/07/23
yukihirocks
9
何と言っても「共感」は誰にとっても身近なトピックだと思うので、広くお勧めできる一冊。それと、ちょうどアダム・スミスに挑戦するべく『道徳感情論』を読み終えた自分にはタイムリーな一冊だった。各時代の「共感」概念がどのように捉えられてきたのか、その継承点と相違点を学ぶことができる。個人的に面白かったのはやはりヒュームとスミスの対比。両者ともにイギリス経験論的で類似しているのだが、それでも明確に異なる点があり、その「”どこに”共感しているか?」という原理的なメカニズムの違いによって、全く視野が広がるのが面白い。2026/05/28
フクロウ
7
最初、かなり読みづらかったので投げそうになった。学者とかの名前が特に分野に詳しくない人間にとってはとっちらかりすぎな気がする。ヒューム、スミスとまとまった著述部分になってくると飲み込めるようになった。“Adam Smith's First Amendmet”というようなタイトルの論文が出されるくらいアメリカでも新自由主義者の祖先として雑言及されるアダム・スミスだが、別に自由放任主義を全面的に支持していたわけではない。共感による制約を、それも望ましくない慣習的共感ではなく望ましい自然的共感を考えていた。2026/06/29
ツッチャン
5
グローバル化した資本が牛耳る世界に、国家は暴力を武器に帝国化し、自らの権力と利益を守ろうと他者を排除する。分断がはびこる世界のなかで「共感」は意味を持つのだろうか。素朴な疑問から本書を手に取った。17~18世紀イギリス、ホッブズ、バトラー、ロック、ハチソンからヒューム、アダム・スミスに至る道徳哲学と共感の思想史。「自己」を出発点に、神や理性に頼らず感情に基づいて、利己主義に陥らずに「徳(公共の善・良心)」にいたる鍵が、「共感」だという。コスモポリタンなヒュームの思想に現代における可能性を感じた。2026/07/26
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