内容説明
2023年ブッカー国際賞受賞! 「ブルガリアのジョージ・オーウェル」がノスタルジアに警鐘を鳴らす傑作
幸福だった時代を再現しアルツハイマーを治療するクリニック。患者は懐かしい記憶を追体験することで症状の改善を目指す。だが再現度が高まるほど、現実逃避を望む者が集い、やがて世界中で模倣される。過去は楽園か、それとも監獄か――ブッカー国際賞受賞作
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
128
現在が不幸だと感じる人間が、幸福な過去を懐かしむのは当然だ。細部まで過去を再現した部屋に認知症患者を住まわせて、症状の改善を図る治療法が出現してもおかしくない。しかし過去への回帰が精神治療だけでなく国民世論となり、政治目標と化す時代が来るのか。昔に比べ向上した体制や生活水準が、元の不便さ貧しさに戻るのを望むだろうか。あり得ないと思う人には出来の悪いSF視されそうだが、AIがヒトの頭脳を凌ぐシンギュラリティを迎え社会運営まで関わるようになれば可能性はゼロではない。数十年先に本書が予言とされる日が来るのかも。2026/05/25
もえ
38
2023年ブッカー国際賞受賞作品。アルツハイマーを治療するクリニックが、幸福だった時代を再現して症状の改善を目指そうとするのだが…。冒頭から散文詩的で難解なのだが、読み進めるうちにこの不安定で幻想的な文体が癖になっていく。ボルヘスの二重化のような鏡の中に鏡がある感じ。欧州の戦前戦後の歴史が下敷きになっていて、1939年と1968年と1989年が肝か。どの時代を幸福な理想の過去と見るかの見解が各国で違っていて、第4章の「過去選択の国民投票」が興味深い。知識の宝庫の図書館もある意味タイム・シェルターなのか。2026/05/12
ほんメモ(S.U.)
16
アルツハイマー型認知症の治療のために、過去を忠実に再現した部屋を備える「過去のためのクリニック」。それがやがて現在と未来を恐れる人々に広がって、ヨーロッパ各国で、どの年代に留まりたいかの国民投票が行われ---そんな不思議なお話でした。ブルガリアの作家さんの小説は初読み、歴史を確認しながら読みましたが、89年の民主化の影響が、人々の青春時代に光も影も与えているように感じました。後半は散文形式なので少し戸惑いましたが、作者の自由な発想力の表れかな。「記憶が乏しくなればなるほど、過去はますます大きくなってくる」2026/06/02
rinakko
8
頗る面白かった。事の始まりは、老人の記憶障害の治療に“過去”が有効だったこと。記憶を失くした人たちに、彼らの内的な時間に合わせた空間(60年・50年・40年代…)を作って幸福の記憶をもたらしたことだった。けれどもその“過去”への傾倒というウイルスは、急速にヨーロッパ中に広まってしまう。人の意のままには出来ないはずの記憶を、“時代の記憶”という目に見える形にしてそこに留めておく…という試みの結末。記憶と忘却をめぐる語り手(とガウスティン)の断片的な思索と、“ボルヘスの二重化の遊び”に引き込まれた。2026/04/08
おだまん
7
これもまた、ドンピシャタイミング。過去への逃避が現実となる。最後の4行が重い。2026/04/26




