内容説明
1930年代初頭。ハリウッドに勝利すべく始まった日独合作のホラー映画撮影は、やがてファシズムの恐怖を予見する不気味な熱を帯び始める。ヘルマン・ヘッセ賞受賞、衝撃の歴史改変小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
HANA
56
第二次世界大戦前夜、ハリウッドに対抗すべく日独合作ホラー映画を作る計画が始まり…というストーリーからあの暗い時代とホラーを組み合わせた小説かと思いきや…。甘粕正彦とスイス人監督の二人を軸とした群像劇でした。とはいえ実在の人物とは一切関係なく、名を借りているだけで全ては著者の創造によるもの。全体的にホラー映画自体はイメージだけでストーリーに直接の関係は無し。本自体の構成から何処となくモノクロ映画のストーリーの断片だけを目にしている印象を受けるも、筋自体は割と平易かなあ。思ってたのとは完全に違ったけど。2026/03/27
NAO
45
甘粕正彦とスイス人映画監督を主人公にした本作の主題は映画とプロパガンダと映画と国家のつながり。話は序破急からなるが、これは来日していたチャップリンが能を観て五一五事件を逃れたことに由来している。(実際に観戦していたのは相撲)「急」で難を逃れたチャップリンは帰国の船の中で怒りを爆発させプロパガンダとして映画を利用しようという甘粕の計画は頓挫するが、ハリウッドの権力の象徴としてのチャップリンがとにかく感じ悪い。甘粕の野望を砕いたチャップリンがこのあと「独裁者」というプロパガンダ的な映画を作っているのも象徴的。2026/04/05
たまきら
38
30年ぶりに日本語で紹介された、スイス生まれの作家。舞台には東京も含まれており、主役の一人は甘粕正彦…と、まあぶっ飛んだ設定です。断片的な「描写」を拾い集めながら読む…という読書体験自体がどこか、映画的。読みながら既視感を覚えていたのですが、読み終わった時にハッと気づきましたー大江健三郎の死者の驕り。…確信犯が書いている気がします。2026/01/27
つちのこ
36
全体主義へと突き進む1932年の日本とドイツが舞台。登場人物はスイス人映画監督エミール・ネーゲリを軸に、実在した甘粕正彦やチャップリン、犬養毅など多彩な構成。史実と虚構を織り交ぜて展開するストーリーは張り詰めた緊張感を漂わせて幻想的。戦意高揚を図るプロパガンダが目的の日独合作映画に対して、チャップリン率いる自由の象徴であるハリウッド映画を対比させるなかで、カメラ越しの風景が明と暗に分かれていくのが秀逸だ。ネーゲリが目で追う東京の風景描写が、小津安二郎の映像のように重なっていく。これが意図的で心地よかった。2026/02/18
ヘラジカ
31
雑な表現にはなるが、読んでいるときの感覚は正に日本文学とドイツ文学のハイブリット。淫靡で不穏な空気が醸成されていて、小説内に何とも言えない独特のゾーンを形成している。結局、何も起こらず、何も為されない。しかし、その徒労感こそがこの小説の醍醐味でもある。解説を読むと、細部の”元ネタ”(三島由紀夫作品との共通点など)を見つけられるような人なら存分に楽しめる作品なのかも。玄人向け。個人的な好みで言うとラストの嗜虐趣味はあまり気持ちがよく無くて気分が淀んだ。2026/02/05




