内容説明
江戸時代、国内最大の叢書『群書類従』の編纂に生涯を懸けた、全盲の学者・塙保己一。盲人とは思えぬ前代未聞の偉業の傍らに常にあったのは、目明き――妻、学者仲間、門弟らとの、すれ違いだった。 “天才・塙保己一”の目に映っていたのは、絶望か希望か、それとも――。「あのお方は、我々には見えぬものまで見えているのさ」
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
181
蟬谷 めぐ実、4作目です。本書は、第39回山本周五郎賞受賞作、江戸時代の全盲の国学者・塙 保己一の半生記でした。山本周五郎賞受賞作だけあって、本書の評判は高いですが、個人的には、塙 保己一の人間性が、あまり見えませんでした。 https://www.kadokawa.co.jp/product/322411000635/2026/05/27
パトラッシュ
174
「群書類従」を編纂した塙保己一の評伝小説と聞くと、ヘレン・ケラーのような艱難辛苦の末に偉業を達成した盲人学者の物語かと思える。しかし作者はそんな単純な展開にせず、頭が切れて強欲で傲慢な保己一像を創造した。総検校に出世し財を蓄えた保己一に対し、家族や弟子は目明きの自分たちはずっと劣る存在でしかない事実を見せつけられ続ける。しかし弱者であるはずの盲人に嫉妬しているとは公言できず、保己一も周囲の思いを敏感に察し、盲人と晴眼者ともに相手の本当の思いが見えない苦悩と断絶が、緊迫した心の葛藤のドラマを生み出している。2026/05/13
いつでも母さん
131
蝉谷さんが幼少期に失明した江戸時代の全盲の天才国学者・塙保己一を紡ぐとこうなる。いや~面白かった。全六章からなるその副題すら「見えるか?」と問いている。保己一・・いや辰之助と呼ばれていた頃の第一章は母の気持ちになって切なかった。なのに第二章からは、保己一を取り巻く人間たちの心模様が何とも苦しいのだ。私も見えるのに(見えるから)僻み妬むちっぽけなヤツなんだと思う情けなさよ。そして、最後の『眩くて眩む』章が好い。「見るなよ、保己一」で結ばれる見事さ。蝉谷さん、これからも楽しみにしている。2026/04/21
trazom
119
塙保己一と聞いて、全盲の国学者、「群書類従」の二つしか思いつかない無学な私だから(しかも、その「群書類従」がどんな書物かさえ知らない)、保己一を主人公とする小説に興味を持った。生涯のエピソードが巧みに盛り込まれ、生い立ち、家族、業績、地位などを知ることができた。読まれた書物を即座に記憶する驚異的な能力、「目のある人は不便なものよ」と言うほど本質を見据える才能で、将軍に謁見する地位にまで上り詰めた人生だが、家族や弟子や仲間たちとのすれ違いは、盲者と晴眼者との決定的な断絶である。その絶望が「見えるか保己一」。2026/05/11
buchipanda3
90
時は丁度べらぼうの頃。全盲の国学者で無類の書物好き、塙保己一の評伝小説。それは苦難と誉れを単に追うというより、ある盲いた者が何を感じ、求め、何を得られずに生きたかを在るが儘に描いたものだったと思う。そして著者の江戸イズムな文体は彼の存在を見事に浮かび上がらせていた。章題のように世には見えぬ者に区別し難い二面のものがある。彼が見つめようとしたものと他者のそれは擦れ違う。嘘か誠か。期待か思惑か。見抜くのは目明きでも難。誰もが見えるものは僅か。終盤の正直な会話が愛おしい。あと南畝との自然なやり取りが楽しかった。2026/05/12




