内容説明
30年以上のキャリアに幕を引くことを決意した、ベルリンの刑事弁護士エーファ。凄腕で知られる彼女は、多くの忘れがたい事件を手がけてきた。11人が被告人となった裁判で1人だけ無実の者がおり、全員がそれは自分だと主張している。1人を救うため10人を無罪とすべきか。厄介だがよく議論される類の事件だと思われたが……。ひとつの証言、発見、弁護活動でその姿が一変する平凡な裁判、そして異常な裁判――。驚異の新人による、息を呑むような完璧なる連作短編ミステリ!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
たま
87
ドイツの法律家エリーザ・ホッフェンさんによる連作短編集。短編はいずれも弁護士のエーファ・ヘアベアゲンが担当の事件で、事件の記述はシンプルだが、真実、罪と罰、責任等々について考えさせ、シーラッハふうで興味深かった。事件についてのエーファの対応はバイアスがかかっており、それは最後の(時間的には最初の)事件に起因するものと分かる。エーファの対応の拙さに加え、「強姦」被害者の女性が裁判で、それまでの取り調べではしなかった発言をするなど、裁判そのものがルーズに運営されている印象で、そういう司法風土も面白かった。2026/07/23
ケンイチミズバ
75
弁護士と顧客の関係でなく、軽いアドバイスのつもりが、まさか。法の解釈について口にしたことが巧妙にも利用され若者が死んだ可能性がある。うかつだったかも知れない。バカンス中はメールを見ないと夫に約束し、ロッカーに鍵をかけたのに罪悪感と正義感が彼女を動かす。手遅れと及び腰の検察、スクープをものにしたと喜ぶ新聞記者、しかし、思いと裏腹に移民排斥がトレンドの時節柄、世論はSNSは犯人の親族まで追い詰める声を高める。ラストはまさにシーラッハのテイスト。欧州の暗い分断への嘆きも見える。法は時に悪人を守ることもあるのか。2026/04/03
まこみや
56
明解な文章、抑制された描写、終末の鮮やかな反転。主人公の弁護士は20年前の断腸の経験から、依頼された事件に対して法的正義(法的合理性)を掲げて果敢に挑む。そして裁判において彼女が勝利を確信した瞬間、物語はコペルニクス的転回が起きる。正と信じた自らの思考と行動そのものが、まさに負をもたらすものであったことを知るのである。文字通りの意味での“トラジック・アイロニー”に他ならない。どの短篇も読後若干のカタルシスと同時に、それ以上に人間に対する苦い認識を反芻せざるを得ない。今年の本の中で忘れ難い一冊となった。2026/05/10
藤月はな(灯れ松明の火)
48
エーファは長きに渡る刑事事件専門の弁護士人生を終了する決意を固めた。異様なまでに被告側に尽くす彼女は自分が担当し、法が理不尽且つ無力であると痛感した事件や今の己を形作った事件を回想する。冒頭での枯れた向日葵で『呪術廻戦』の日車さんを思い出して嫌な予感がしていたら・・・。弁護する側に最大限に自力を尽くすも人間関係の機微やそれを受け止める者の感情や思考を見誤る為に浅墓な結果を生み出してきたエーファや時に大衆に阿いた裁判に絶句。「少年兵」での容赦ない真実を包み込み、守る物語の必要性が裁判に使われるのが最も印象的2026/04/30
ゆのん
40
冒頭で弁護士を引退しようとしている主人公。その弁護士が手掛けた事件を振り返る物語となっている。普通に生活しているとお世話になる事のない弁護士。出会いのは小説の中だけだが、概ね弱者の味方、正義を貫くというイメージ。もちろん依頼人の利益を護る訳だが、それを利用する人達がいる。そんな依頼人を引き受けた弁護士はどうするのか?結果、犯罪者を野放しにし、無実の人を監獄に送る事になったとしたら?正義と悪、理想と現実の狭間に立たされる主人公。イメージとは違う弁護士にモヤモヤ感が残ったが、夢中で読んでしまった。2026/03/06




