内容説明
30年以上のキャリアに幕を引くことを決意した、ベルリンの刑事弁護士エーファ。凄腕で知られる彼女は、多くの忘れがたい事件を手がけてきた。11人が被告人となった裁判で1人だけ無実の者がおり、全員がそれは自分だと主張している。1人を救うため10人を無罪とすべきか。厄介だがよく議論される類の事件だと思われたが……。ひとつの証言、発見、弁護活動でその姿が一変する平凡な裁判、そして異常な裁判――。驚異の新人による、息を呑むような完璧なる連作短編ミステリ!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
たま
90
ドイツの法律家エリーザ・ホッフェンさんによる連作短編集。短編はいずれも弁護士のエーファ・ヘアベアゲンが担当の事件で、事件の記述はシンプルだが、真実、罪と罰、責任等々について考えさせ、シーラッハふうで興味深かった。事件についてのエーファの対応はバイアスがかかっており、それは最後の(時間的には最初の)事件に起因するものと分かる。エーファの対応の拙さに加え、「強姦」被害者の女性が裁判で、それまでの取り調べではしなかった発言をするなど、裁判そのものがルーズに運営されている印象で、そういう司法風土も面白かった。2026/07/23
yukaring
78
法と正義の間のジレンマ、人の弱さや矛盾する感情。“暗黒の瞬間”が訪れた時、人はどう動くのか?敏腕弁護士エーファが手がけた9つの事件。圧倒的なリアリティで語りかけてくる司法ミステリの傑作。正義感溢れるエーファだが30年以上のキャリアに幕を引く事を決意する。そして忘れがたき事件へ想いを巡らせる。強姦事件で11人の被告の中に1人だけ無実の人間がいる場合、正しい裁きとは?他国での犯罪を裁く事が出来るのか?解決した後に明るみに出る意外な真実と法の盲点をつき張り巡らされる策略。ミステリ的な仕掛けも巧みな連作短編集。2026/08/03
ケンイチミズバ
77
弁護士と顧客の関係でなく、軽いアドバイスのつもりが、まさか。法の解釈について口にしたことが巧妙にも利用され若者が死んだ可能性がある。うかつだったかも知れない。バカンス中はメールを見ないと夫に約束し、ロッカーに鍵をかけたのに罪悪感と正義感が彼女を動かす。手遅れと及び腰の検察、スクープをものにしたと喜ぶ新聞記者、しかし、思いと裏腹に移民排斥がトレンドの時節柄、世論はSNSは犯人の親族まで追い詰める声を高める。ラストはまさにシーラッハのテイスト。欧州の暗い分断への嘆きも見える。法は時に悪人を守ることもあるのか。2026/04/03
まこみや
56
明解な文章、抑制された描写、終末の鮮やかな反転。主人公の弁護士は20年前の断腸の経験から、依頼された事件に対して法的正義(法的合理性)を掲げて果敢に挑む。そして裁判において彼女が勝利を確信した瞬間、物語はコペルニクス的転回が起きる。正と信じた自らの思考と行動そのものが、まさに負をもたらすものであったことを知るのである。文字通りの意味での“トラジック・アイロニー”に他ならない。どの短篇も読後若干のカタルシスと同時に、それ以上に人間に対する苦い認識を反芻せざるを得ない。今年の本の中で忘れ難い一冊となった。2026/05/10
さっちゃん
49
ベルリンの刑事弁護士エーファが30年のキャリアの中で印象に残る九つの事件。法は必ず正義なのか、それとも…。/ドイツミステリ初読み。無駄を省いた淡々とした語り口で読みやすい。「暗黒の瞬間」という意味深なタイトルは、読めば納得の後味の悪さをうまく言い表している。真実は当人にしかわからない。裁判官や世間を納得させられるストーリーをいかに描けるかが勝負なのだろう。エーファは確かに優秀なのだろうけど弁護士には向いてないかも。印象的だったのは望む物語を語った「少年兵」、1人の無実と10人の重罪を秤にかけた「強姦」。2026/08/12




