内容説明
太宰は何よりも,「人間関係における悲劇」や「傷つくことへの恐怖」を誰より巧みに表現した,類い稀なことばの使い手であった.無頼派の旗手という「神話」から作家を解放し,『人間失格』『晩年』『斜陽』他の文体や方法を詳細に分析するところから,きわめて現代的なその魅力を鮮やかに描き出す,道案内の書.
目次
まえがき
もはや無頼派ではない/現実との疎隔感/「孤独」の意味の変化/太宰治シンドローム/傷つけあうのはやめておこうよ症候群/自分がいかにダメであるか/いかに「へだたり」をつくるか
第一章 なぜ「太宰治」なのか
「青春」の文学/一人だけちがうという不安/「語り」のトリック/対人的な「不安」と「恐怖」/コミュニケーションの悲劇/距離を創るためのことば/興味深い草稿/「大庭葉蔵」をいかにつくるか/現実逃避の美学/悲劇から疎外される男/「失格者」になれなかった「人間」の物語/「太宰治」という神話/「無頼派」とは何か/現代の再生にむけて
第二章 メタ・メッセージの希求
「愛」の二律背反/「饒舌」と「寡黙」/「自己」を否定するということ/「個性」とは何か/「客観性」の持つ欺瞞/メタ・メッセージの希求/パロディの精神/実生活の演出者/「描く」ことと「語る」こと/現代における「語り」の復権/事実とフィクションの境界/「小説家」をいかに演じるか
第三章 「太宰治」の誕生
「作者」とは何か/津島家のルーツ/「百姓」であり,「貴族」でもあるということ/〈自尊心〉ということば/〈自分をつまみ出せるやうな強い兄を持ちたい〉/まなざしの反転/時代思潮との葛藤/〈放蕩の血〉という物語/創られた“疎外”/「太宰治」の誕生/第一創作集『晩年』の世界/ひしがれた自尊心/〈死ぬるとも,巧言令色であらねばならぬ〉
第四章 「ナンセンス」の美学
かけちがいの感覚/ナンセンスとは何か/荒唐無稽なるもの/演技の意識/現実逃避の先取り/小説家の吐く「 」/ヴァイオリンよりヴァイオリンケエスが大事/「道化」と「罪」の相関関係/アリバイとしての「罪」/演技としての「告白」/「道化」と自意識
第五章 ことばで距離を創るということ
ことばの遠近法/芥川賞騒動/実生活のパフォーマンス/御坂峠における再生/家庭の幸福/小説の書けない小説家/戦時下の太宰治/太宰治と家族国家論/「抵抗」か「協力」か/天皇を頂点とするアナーキズム/人間はみな同じではない/「家」へのこだわり/志賀直哉への抵抗
第六章 「心中」の論理
「滅び」のテーマ/「滅び」と「裏切り」/タブーとしての近親相姦/「哀蚊」の世界/『晩年』というカタルシス/「ふるさと」とは何か/方言という方法/〈アカルサハ,ホロビノ姿デアラウカ〉/身振りとしての「滅び」/「姉」と「弟」の物語/共に「滅ぶ」ということ/アイデンティティとは何か
第七章 「女類」とは何か
「男類」と「女類」/「女」の果たす役割/つくられた偏差/書く意識を相対化するもの/異質な文体の葛藤/戦時体制と「女語り」/「母」なるもの/「母」の崩壊/戦後の「女」たち/「道化」の変質/「罪」の再登場/「文体」の持つ力
参考文献
あとがき
現代文庫版あとがき




