焚殺 歴史の闇に隠されたあるゲイ・クラブの悲劇

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焚殺 歴史の闇に隠されたあるゲイ・クラブの悲劇

  • ISBN:9784336078070

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内容説明

【エドガー賞 犯罪実話部門(2019年度)受賞】
【ラムダ文学賞LGBTQ+新人作家賞(2019年度)受賞】ほか受賞多数

1973年6月24日、アメリカ南部ニューオーリンズのゲイ・クラブ〈アップステアーズ・ラウンジ〉で放火事件が発生し、32人が命を落とした。オーランド銃乱射事件が起きる2016年まで、アメリカ史上、同性愛者を標的とした最大規模の大量殺人事件であり、同時に社会の根深い差別と無関心を浮き彫りにする象徴的な悲劇となった。

〈アップステアーズ・ラウンジ〉は、LGBTQ+の人々が安心して集える数少ない場所であり、当時同性愛者を受け入れた唯一の教会であるメトロポリタン・コミュニティ教会(MCC)の活動拠点でもあった。事件当夜、いつものように談笑する客たちの下階で火が放たれ、炎は瞬く間に店内を包んだ。
事件そのもの以上に深刻だったのは、社会の冷淡な反応だった。ゲイ・クラブで起きたという理由だけで、地元メディアは事件をほとんど報じず、多くの宗教団体や公的機関も、犠牲者を悼む姿勢を示さなかった。中には、遺族から遺体の引き取りを拒否されたり、教会から葬儀を断られたりした犠牲者もいた。遺族の多くは「家族の恥」として沈黙を選び、犠牲者たちは匿名のまま扱われ、事件はやがて人々の記憶から消えていった。
しかし、沈黙に抗し、記憶を語り継ごうとする人々がいた。MCCの信徒や生存者、支援者たちは、語りと記録を通じて事件を風化させまいと努めた。25年後の追悼式には、事件当時は沈黙していた関係者たちが出席し、初めてこの事件が「歴史」として社会に受け止められた。2022年には、ニューオーリンズ市議会が事件とその後の冷淡な対応に対して公式な謝罪決議を可決。生存者たちが長年抱き続けた「声をあげること」の意義が、ようやく社会に届いた瞬間だった。

本書は数十年にわたる丹念な取材と調査を通じて事件の全貌を描き出した渾身のノンフィクションである。著者ロバート・W・フィーゼラーは、単なる事件の記録にとどまらず、この悲劇をLGBTQ+人権運動の原点として位置づける。これは過去を掘り起こす作業であると同時に、現在と未来に向けた問いかけでもある。

解説・北丸雄二

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。

星落秋風五丈原

16
問題は、事件の容疑者について目撃者がかなり詳しい事を言っているのに、警察が複数回取り逃がしている点だ。もちろん加害者が逮捕されたとしても、失われた命は戻らない。しかし、通常通りの捜査を行い、裁判にかけていれば、法の裁きがどんな人の前においても平等であることを示せたはずだ。加害者はゲイフォビアというわけではなかったし、地元の有力者やその関係者でもない。警察側に逮捕する気があれば、機会はあった。にもかかわらず、やらなかった、と言ったほうが正しい。これでは、被害者は浮かばれない。 2025/11/24

isbm

1
★★2025/12/11

ちり

1
放火そのものはヘイトクライムによるものではないため、副次的に発生している「同性愛者であること自体が違法だった」時代に生きることの苦難が胸に迫る。遺体の身元特定が困難であったこと(この日このゲイバーに行くと家族に告げている人が少ない、また基本的に正規の身分証を持たないで来る)、犯人逮捕につながる目撃をしていてもその場にいたことを警察に知られるわけにいかないので証言ができない、世間もマスコミも行政も警察もまったく非協力的(敵対的と言っていい)なこと。「差別」のさまざまなありようを垣間見ることになる一冊。2025/12/03

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