内容説明
どこかの記憶はあなたの記憶
彼女が のつもりで適当に言った不気味なローカル番組は実在し、しかも彼女自身も出演していた(「二つの真実と一つの嘘」)。飛び込んだ人間がたまに消える池で行方不明になった兄の思い出(「センチュリーはそのままにしておいた」)。バラッドの謎を解き明かそうとするネットユーザーたちは、その歌に秘められた恐ろしい意味に気づきはじめる(「オークの心臓集まるところ」)。6人のガールスカウトたちのわたしたちがキャンプで体験したこと(「科学的事実!」)。
迷っても、しっかりと着実に、奇想と現実の狭間を歩む。もっとも新しく、もっとも懐かしい、記憶を揺さぶる奇想短篇集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
りらこ
25
結末まであと一歩というところで作者から手を離されてしまう感覚。 これがなんとも心に余韻として残ってしまう。 周囲の風景に溶け込んだ、繊細な心象の描写が登場人物にリアルとはかなさの両面を持たせ、現実のように感じながら読み進める。 だから、耳元で鳴っていた音楽が突然終わったかのように感じる。 特に『われらの旗はまだそこに』『山々が彼の冠』は、この抱えた気持ちはどうしたら?と途方にくれる。 現実か幻想なのか、曖昧なのが魅力なのだろう。SFでホラー。結構面白い。 2025/11/13
本の蟲
18
バラエティ豊かな作品がどれも抜群に良かった『いずれすべては海の中に』に続くピンスカ―の第二短編集。ハードルが上がったせいか、暗めの作品が多い本作は前作に比べてやや落ちる。とはいえ、政府あるいは大きな力に個人が立ち向かう話を、奇想天外なセンスで味付けした作品は楽しめた。愛国心が強烈に幅をきかす近未来米国が舞台の『われらの旗はまだそこに』。ロックダウンの中できることを探す『今日はすべてが休業してる』。理想の介護施設がいつの間にか監獄に『ケアリング・シーズンズからの脱走』がお気に入り2025/12/14
nightbird
8
ディストピアSFあり異世界ファンタジーありホラーありのバラエティ豊かな短編集。でも権力への不信、全体主義への嫌悪、女性同士の絆など、一貫した「この人らしさ」みたいなものがあって、意外と味はまとまっている。短い物語の奥に、その物語が生まれる原因となった社会や、世界丸ごとひとつが存在しているのが感じられる作品が多く、書かれている分量以上にボリュームがある。「壮大な物語の冒頭部分だけをいくつも読んでいる」という印象。わくわくして良い。2025/10/23
rinakko
6
素晴らしい短編集だった。やはりサラ・ピンスカーいいなぁ。失われた時代の空気が確かにあったこと、不当な力に抗い守ろうとする其々の居場所、記憶にしまわれた愛おしい時間のこと。あり得そうでぞっとした「ケアリング・シーズンズからの脱走」は、ゾラの反骨心と気概に惚れ惚れ。「オークの心臓集まるところ」は、民謡の歌詞を研究サイトで検証する展開が凄く面白かった(ラストの余韻、想像の余地があって好き)。とりわけお気に入りの「科学的事実!」は、ガールスカウトの少女たちの夏のお話。留められない時間へ手を伸ばしたい気持ちが溢れる2025/12/03
土筆
6
短編集第2弾。前回の短編集「いずれすべては海の中に」が面白かったので気に入った作家さん。今回も現実から1歩外れた奇妙さという感じで、まさに「いつかどこかにあった場所」。嘘つきの女性がでっちあげた変なローカル番組、その内容はどんどん奇妙に。宮廷魔術師の真実。急なロックダウンに抗う少女たち。兄はどうして消えたのか。ビッグブラザー施設から脱走する老人。皇帝の思いつきに静かに反旗を翻す人々。ガールスカウトの少女たちが出会ったモノ。良い。2025/11/27




