内容説明
第174回芥川賞&第47回野間文芸新人賞受賞作!
ここで暮らしていた人々の存在の証を、ただ、描きとめておきたい。
三田文學新人賞でデビューした注目の小説家が、傑出した完成度で紡いだあたらしい建築文学。
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いしいしんじ氏&松永K三蔵氏、推薦!
「大切に建てられた一軒の家に、ひとの気配がやどる。流れる時のすきまから、あまたの声がもれだしてくる。いつかまた、この本のなかに帰ってこようと思った。」
――いしいしんじ
「紐解かれていく「時の家」の記憶は、語られなかった想いに繋がる。物質(モノ)がこれほど繊細に語り得る小説を私は知らない。」
――松永K三蔵
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青年は描く。その家の床を、柱を、天井を、タイルを、壁を、そこに刻まれた記憶を。
目を凝らせば無数の細部が浮かび、手をかざせば塗り重ねられた厚みが胸を突く。
幾層にも重なる存在の名残りを愛おしむように編み上げた、新鋭による飛躍作。
【装幀】水戸部 功
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
シナモン
98
家の記憶はそこに住む人の記憶。リビング、洗面所、寝室…。かつてそこにあった暮らしが静かな文章とともに浮かび上がる。建築、家という硬いイメージとひとつひとつの記憶の柔らかなイメージのコントラストが何とも言えない情緒を醸し出していた。文章が美しくて、ずっとこの世界を味わっていたかった。大切にゆっくり読みたいと思わせる一冊だった。芥川賞候補作。2026/01/05
がらくたどん
63
無人になり解体を待つ家がある。家の各部材が風雨温湿にゆっくり反応しながら「終」の時を待っている。かつて家を建てた建築家に「描くこと」の愉しみを教えられた青年が忍び込み愛おしむようにデッサンを始めると、家の記憶が人の気配を携えて蘇る。丸柱の傷・漆喰の窪み。青年が屋内を移動しスケッチブックに部屋々々の姿を留めるほどに、家が見つめて来た人の営みが読んでいる私達に流れ込む。その記憶の奔流は合計三代を抱き留めた一軒の家の大往生の走馬灯のよう。で、思う。震災で覚悟もなく斃された家の記憶は誰かに受け止められたかしら。2026/01/18
ぼっちゃん
53
【第174回芥川賞受賞作】家を建てた設計者と、スケッチを教わった少年(青年となり取り壊される家を記憶にとどめようとスケッチする)、2代目、3代目に住んだ人の記憶が行き来しながら、家が壊されるまでの物語だが、4人の記憶が入り乱れて書かれているので読みづらさはあったが、これが純文学なのだろうな。【図書館本】2026/02/07
ヘラジカ
48
まだ芥川賞を取っていない新人(?)作家の作品とはとても思えない。なんという筆力だろう。建築家の言葉で最も有名なのは「神は細部に宿る」だろうが、この作家はその細部の細部に宿る神性を徹底して描こうとしているように感じる。家に染み付いた記憶や時間の流れ、人々の人生そのものを微に入り細を穿つような、病的なまでの丁寧さで美しく綴った逸品。決して読むのが簡単な作品ではないが、新人作家の習作とはかけ離れた端正な小説である。イタリア文学の傑作、アンドレ・バイヤーニの『家の本』を思い出した。2025/12/17
olive
44
神は細部に宿る。そう思わずにはいられないほど、この作品は「家」を細部まで丁寧に描いている。柱、傷、染み、壁の起伏。家のあらゆる部分に視線が注がれている。だから、頭の中はごちゃごちゃとしたリズムで満たされるのだろうと思った。けれど意外なほど静かだった。記憶と思考が、ゆっくり、やさしくほどけていく。物語の家には、三代にわたる住民の記憶が刻まれている。時代も視点も違うのに、家とのおしゃべりを通して、語りは自然に切り替わっていく。その巧みさに、ただ「お見事」としか言いようがない。芥川賞作品の中でも特に心に残る2026/01/31




