内容説明
私は、『エルマーのぼうけん』を日本で初めて読んだ子どもです。
父はやくざでした。母は芸者でした。
高度経済成長期に入りかけた頃の東京の板橋区の裏町の裏通りをさらに入ったところで、「私」は夢中で本を読み、父と母は過去を隠して暮らしていた。
『少年少女世界名作文学全集』、『風にのってきたメアリー・ポピンズ 帰ってきたメアリー・ポピンズ』、『シートン動物記』、そして父に読み聞かせてもらった『エルマーのぼうけん』と『ドリトル先生アフリカゆき』……
「私」の一生を貫き、その言葉をつくりあげてきた児童文学を追ううちに、読み聞かせてくれた父の声から引き寄せられたのは「私」の幼いころの記憶、「私」の知らなかったこと、思い出せない父の背中の刺青。
父と母はなぜあのように暮らしたのか。記憶の海に溺れながら、児童文学と翻訳と、「私」につならる人々をめぐる道行き。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
どんぐり
88
本書タイトルの「りゅう」は、印刷所の工場長だった父親が読み聞かせてくれた児童文学『エルマーのぼうけん』に登場する「りゅう(ドラゴン)」に由来する。伊藤比呂美が生まれた昭和30年、その父親はすでに堅気になっていたが、かつて山口組三代目組長・田岡一雄を「叔父貴」と呼んだ男だった。家の中では、父がやくざであったことがごく普通に語られていた。背中一面に刺青を持つ父、そして「ひ」の音を発することができない元芸者であった母の記憶もまた、隠されることなく語られる。→2025/12/14
mike
84
表題は「エルマーのぼうけん」の原題。伊藤さんの父親が印刷屋に勤めていた関係で彼女は日本で初めてこの本を読んだ人。大好きな父親との思い出。娘に本を読んでやり世界名作全集を揃えてやり穏やかで優しかった。でも父親には娘の知らなかった壮絶な過去があった。一方、折り合いの悪かった母。不愛想で気難しく長らく彼女を受け入れられなかった。しかし彼女にはそうならざるを得なかった人生があった。70歳になり、ようやく清濁併せ呑むことができるようになった伊藤さんの静かな追想。最後の数ページは涙で文字が滲んだ。2026/01/16
ネギっ子gen
80
【『エルマーのぼうけん』の原題は、『Elmer’s Adventure』ではなくて、『My Father’s Dragon』】『エルマーのぼうけん』から始まった児童文学、自身や父や母のことなどをたどった道行きの記。<父がやくざであったことを、家の中ではごく普通に話題にしていました。/父と母が何を語って聞かせたか、何を私に語らなかったか。覚えているのは断片的なことばかりです。でも私に、物心という心がついて気がついたのは、一歩外に出れば、親たちは、二人とも、父の刺青をひた隠しに隠していることでした>と―― ⇒2026/01/08
ケイトKATE
24
『おとうさんのりゅう』は、著者伊藤比呂美が高橋源一郎のラジオ番組で度々言及していた父親を中心に思い出を書いている。父親は戦時中は特攻の指導員で、戦後はヤクザだったという凄まじい過去を持っていた。伊藤比呂美が生まれた頃にはカタギになって印刷業を営んでいた。父親は元ヤクザだったが、明治大学卒業して教養もあり文学好きだったこともあり、娘の比呂美に絵本の読み聞かせや少年少女世界文学全集を買うなど大きな影響を与えている。本書は、伊藤比呂美の子供時代の回想と、戦後の児童文学の歴史を書いているのが興味深かった。2026/01/15
遠い日
9
伊藤比呂美さんの子ども時代の読書遍歴とお父さんの過去を静かに掘り起こしていく。エッセイなのにまるで物語のように語られて、お父さんの魅力とストイックなその生き方が渋く光る。娘に読んで聞かせた『エルマーのぼうけん』のゲラ。比呂美さんの大切な記憶。全てのことばに愛がこもっていて、お父さんへの愛情が鮮やかに伝わってきました。いい本を読ませていただきました。読んでいる間中幸せな気持ちでした。2025/12/23




