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内容説明
ほぼ同時代を生きた松本清張と水上勉には、意外にも共通点が多い。最大の共通性は雑食性。ともに社会派ミステリ作家として出発するもミステリ以外にも手をつけ、清張は小説・ノンフィクションの二刀流を展開し『昭和史発掘』『古代史疑』など歴史評論にも進出、水上勉も『寺泊』で川端康成文学賞を受賞した私小説路線と並行して、寂れゆく辺境や滅びゆく伝統工芸のルポルタージュ、一休や良寛といった高僧の評伝に新境地を切り開いた。好一対だった大作家の歩みと名作を読み解く。 【目次】序章 清張と勉――その軌跡/第1章 文壇作家時代の松本清張/第2章 初期水上勉は私小説家だったのか/第3章 清張の乱歩批判/第4章 『天城越え』は『伊豆の踊子』をどう超えたか/第5章 清張の江藤淳批判/第6章 映画「砂の器」は小説をどう補修したか/第7章 『点と線』から『日本の黒い霧』へ/第8章 推理小説家時代の水上勉/第9章 日本型私小説を究める――その後の水上勉/第10章 国民的文化人・松本清張――『読書世論調査』の結果から/第11章 言葉を超えた世界へ・水上勉――『才市』の奇跡/あとがき/松本清張・水上勉年譜/人名索引
目次
序章 清張と勉──その軌跡/実は似た者同士?/雑食の果てに──社会派推理小説の時代の終焉/様々なジャンルへの飽くなき挑戦──文学・言葉を超えて/第1章 文壇作家時代の松本清張/「探偵作家」から見た「文壇作家」/「文壇作家」時代の清張──「推理小説」と「現代小説」/デビュー作『西郷札』は「大衆小説」なのか/仕掛けとしての秘密・隠蔽/推理小説への意識の高まり──「誤読」をきっかけに/明確な推理小説『記憶』──満載の謎、そして謎解き対決/さまよい続けた「文壇作家」時代──「多芸は無芸」(?)の六年間/第2章 初期水上勉は私小説家だったのか/生活年譜としての『フライパンの歌』/私小説の三要素──分身・体験・場所/意外と少ない「私小説」/『風部落』/『決潰』『枯野の人』/「私小説」のまわりを取り巻く小説群/第3章 清張の乱歩批判/乱歩と清張の「未完の対決」/清張の推理小説論──「本格派」は「児戯的」である/清張による戦略的な乱歩否定/清張の野心と肯定のノイズ/第4章 『天城越え』は『伊豆の踊子』をどう超えたか/仮想敵としての『伊豆の踊子』/『天城越え』を貫く反『伊豆の踊子』意識/オーバーラップする二つの作品/二人の「私」と差別意識/差別とは無縁な「私」の感情/「私」の人生航路──アンチ純文学の闘いの果てに/第5章 清張の江藤淳批判/「ヌーボー・グループ」と「若い日本の会」/関川のモデルは江藤淳?/「文化人」への嫌悪感と江藤淳批判/江藤への執拗な論難と三田村鳶魚/揺るがぬ文壇・純文学批判/第6章 映画「砂の器」は小説をどう補修したか/小説『砂の器』の構造的欠陥/今西の推理過程──東北地方へのこだわり/紙吹雪の女/情報不足による今西の推理の遅れ/根拠不足という「致命的な綻び」/唐突な和賀の浮上への「釈明」/純文学派への闘争心ゆえの小説の構造的破綻/第7章 『点と線』から『日本の黒い霧』へ/ひとつの起点としての『点と線』/トリック過剰への反省から生まれた『ある小官僚の抹殺』/ノンフィクションと小説との分岐点/『小説帝銀事件』における諸問題の改善/「小説」として書くつもりだった『日本の黒い霧』/「史眼」をもった文学への確信/「私」とはすなわち清張その人である/渦中でもがく人間を描くには──推理小説的手法への回帰/第8章 推理小説家時代の水上勉/清張が依拠した方法論──木村毅『小説研究十六講』/『霧と影』の分身たち/客観化と「濃厚な分身」の狭間で/社会的事件への鋭いまなざし/『海の牙』から『飢餓海峡』へ/アンチ私小説・社会的事件重視の系列の終焉/第9章 日本型私小説を究める──その後の水上勉/推理小説から「日本型」私小説へ/母、そして修行時代/女性たちへの追慕/『寺泊』──「いろんな時期の、いろんな人間関係の、いろんな話」/様々な試みに投影される〈わたくし〉/第一私小説集としての『雁帰る』/私小説から派生した二つの流れ──ルポルタージュと評伝/主役へと躍り出た評伝の営み/第10章 国民的文化人・松本清張──『読書世論調査』の結果から/巨大な文化人的存在として/『読書世論調査』における清張/本の売れ行きとの関係/「好きな著者」ランキングの推移/なぜ「よいと思った本は」の順位が低いのか/一九六一年以降の大きな断層/旧作の根強い人気と小説以外の分野への進出/第11章 言葉を超えた世界へ・水上勉──『才市』の奇跡/才市の生き方への強い共感/ハンディと輝きとの逆接的な関係──才市型人間の捉え直し/父母を通じて才市に流れ込む〈わたくし〉/カンナ屑と父の思い出/『電脳暮し』、そして慧能への深いまなざし/言葉を超えた世界──沈黙が語りかけるもの/詩よりも従容たる実践──俗世の無言詩人として/あとがき/松本清張・水上勉年譜/人名索引