内容説明
ベイリー・ギフォード賞受賞のメモワール
終末的未来を描いた小説家、原爆開発の端緒を開いた物理学者、〈死の鉄路〉から生還した父と家族、流刑地だった国と人々の歴史を描く。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
たま
89
父が日本軍捕虜となり泰緬鉄道と大浜俘虜収容所で過酷な取り扱いを受け、原爆投下に言わば救われたこと、原爆完成前にそれをイメージし、それを阻止しようとした人々、オーストラリアに囚人として来て「奴隷労働」に従事させられた祖先、植民者に虐殺されたアボリジニの祖先、カヤックの事故で川で溺死寸前となった自身の臨死体験。それらを創作も美化もなく、記憶の曖昧さはそのままに、思考はするが結論づけることもなく語る。「物語」の拒否として興味深く読んだ。愛を問う題名は逆説で、読者として作家に信頼されていない感覚が付きまとった。2025/11/12
マリリン
40
遠い日の記憶を語る著者の眼差しに幻想的な情景を感じる。既読の『奥のほそ道』が甦る。その日の広島に残されたのは問いだけ…。より長く愛するのは誰? あなたか私か、住民か奴隷労働者か…何故互いに対しそのようなことを為すのか? 死者の魂は数字の外にある。数値化できる答えはないのかもしれない。言葉が羅列されただけの本は本ではない、そこに宿る魂がすべてだと。断片的に語られる記憶は、フィクションかノンフィクションなのか…フラナガンの作品を読むと過去の全てが濃霧や雪に覆われたような錯覚に陥る。それは赦しなのかもしれない。2026/01/25
ケイティ
29
日本軍の捕虜だったフラナガンの父親について当時の関係者に聞き取りをするところから物語は始まる。その連鎖反応として、本作の大きなテーマである原爆、タスマニアの原住民とヨーロッパ人の入植についての家族史、自身の臨死体験など、さまざまな怒りや問いが盛り込まれいる。それらは一見バラバラでとりとめのないようだが、チェーホフの短編から取った「第七問」のタイトルは、あらゆる人間に向けられた問いでもある。ノンフィクションだが小説のよう。何より文章がとても素晴らしく、心の深いところにしみる文学性と同時に思考が広がる大作。2025/11/10
アオイトリ
28
フラナガン初読)想念が断片的に入り乱れ、読み進めるのは簡単ではなかった…伝説の作家H・G・ウエルズ。その作品から核の世界を予見した科学者シラーズ。ふたりは科学が起こしうる恐怖に対し、理性的に解決する世界政府を信じたけれど、実際には原爆が投下されてしまった。その大戦で過酷な捕虜生活を生き抜いた父。思索は作家のルーツへと遡る。大英帝国の流刑地とされた自然豊かなタスマニア。囚人奴隷として差別、貧困の歴史を歩んできた祖先たち。最後にカヤックでの遭難体験がある。艱難を経た強烈な生の実感と多幸感に驚かされた。2026/03/02
メセニ
21
9/10。ここ最近読んだものの中では最も書き留めておきたい言葉に溢れた本だった。本書は『解放された世界』に示されるウェルズの予見性を起点とした原爆投下に至るまでの歴史と、原爆投下時に日本で強制労働を課されていた著者の父親の体験、そしてタスマニアという土地の記憶とそこに生を受けた著者と一族の記憶が、分かちがたく交差しながら「連鎖反応」的に描かれている。”わたしたちはこの世界がおぼろげにしか見えないから、嘘偽りを、時、歴史、現実、記憶、詳細、事実と呼んで、そのなかに身を置いているのだろうか”。→2026/03/20
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