中公選書<br> 陸軍士官学校事件 二・二六事件の原点

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中公選書
陸軍士官学校事件 二・二六事件の原点

  • 著者名:筒井清忠【著】
  • 価格 ¥2,200(本体¥2,000)
  • 中央公論新社(2025/08発売)
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  • ISBN:9784121100238

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内容説明

陸軍士官学校事件はクーデター企図事件で、1934年11月に発覚し、関係者逮捕でひとまず終結した。
二・二六事件の前史として扱われており、この後、真崎更迭事件、相沢事件へと続く一連の流れの劈頭をなすものだ。
昭和史の動きを捉えるために重要な事件であるにもかかわらず、非常時日本に頻発したテロ、クーデターのなかでは、従来、ごくマイナーな位置づけであった。
 この事件は陸軍士官学校の中隊長であった辻政信大尉(統制派)が、参謀本部の片倉衷少佐らとともに画策したとされる。
対立していた皇道派の村中孝次(陸軍大学校学生)、磯部浅一(一等主計)に陸士候補生(陸軍士官学校生徒のこと)をスパイとして送り込み、クーデター計画が存在するとして、深夜、陸軍次官のもと駆け込み逮捕させた。
村中と磯部は結局、免官となる。
 この事件は実に奇妙なものであり、陰謀的な面がきわめて強い。
デッチ上げといわれる場合もあるが、それなら何故、陸軍次官まで動いたのかなど謎に満ちている。
それゆえ、実証的検討作業が遅れたことは、事件の解明を妨げてきた理由としてある。
実際、関係者の軍事裁判の過程では怪文書も多く飛び交い、皇道派・統制派の暗闘のなかで、事件そのものと事態収拾が進んでいった。
 いずれにせよ、「陸士事件なくして二・二六事件はなかった」といわれるほど、昭和維新史上で重要な事件であるにもかかわらず、今日まで陸軍士官学校事件を扱った単著はおろか、専門的研究論文も存在していなかった。

 本書は昭和史の第一人者が、この事件の実像に迫った本である。
事件関係者への聴取記録など基礎史料を渉猟したうえで、昭和史叙述で欠落していた部分を埋めた第一級の労作といえよう。
時々刻々で事件の流れと人の動きを捉え、ときにドキュメンタリータッチも交えて描かれる一方で、本書は、事実と推測を画然と分けて記す姿勢を通して実証史学の骨法を明らかにしている。

 本書のもう一つの特徴は、事件そのものを扱うとともに、事件の背景についても筆を費やしているところだ。
陸軍士官学校事件は陸軍内の派閥闘争が深くからんで起きている。
いうまでもなくそれは皇道派・統制派の対立のことだが、著者は本書で、この対立の前史から説き起こしており、前身となる長州閥と薩摩閥について触れることも忘れない。
また、永田鉄山や東条英機らが関わった「バーデンバーデン盟約」にも筆は及んでいる。
昭和陸軍の主要人物が次々と登場して、事件の叙述に広がりを与えているのも、本書の魅力の一つだといってよい。
 戦後も80年を数えたが、現在、憲法改正や安全保障問題などを論議するさい、わが国の過去を振り返る必要は絶えず生じている。
そのなかで、昭和陸軍暗闘史における異色の物語として、本書は、幅広い昭和史ファンの注目を集める本となるだろう。
そして、隠された昭和史の一面に始めて光を当てたという意味で、独自の価値を発信する本となるであろう。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。

skunk_c

18
昭和史の泰斗が、丁寧な史料吟味によってその実像を明らかにしている。アウトラインは士官学校の血の気の多い若者が青年将校の動きに乗ろうと躍起になる中、その動きを当時陸軍を握りつつあった統制派が押さえ込んだというところか。辻政信の動きが極めて興味深い。一方教育総監であった真崎は、当時かつての盟友だった林銑十郎が袂を分かつて統制派と宇垣派の連合に接近する中、有効打を打てずじり貧となっていく。この後永田鉄山斬殺から2・26事件に繋がる一連の皇道派の動きの言わば開始点に当たる出来事で、当時の陸軍の分裂状況が見える。2018/02/20

叛逆のくりぃむ

13
 陸軍士官学校事件は226事件に至るエポックとされるが、その全貌を記した書は少ない。本書はその貴重な一書である。良質な一次資料に基づき、事件の全容に迫る著者の姿勢はまさに探偵小説の探偵そのものである。推理小説を彷彿させるという読者からの評価も頷ける。事件前から統制派の領袖と目された永田鉄山は皇道派に対する人事面での抑圧を強めていたが、事件以後はそれを強力に推進していくことになる。226のみならず相沢事件の遠因もここに見出すことも可能である。とにもかくにもこの事件が陸軍随一の手腕と頭脳を有した男の生命を奪う2016/06/24

ネコ虎

7
2.26事件までのいくつかの事件について知識が不十分なため、よく理解出来なかったが、詳しい人にとっては興味深い著作であろう。青年将校や士官学校生徒が軍隊の枠からはみ出た活動をしても寛容であったのが不思議だが、当時は異様な雰囲気に満たされていたのかも。皇道派と統制派の権力争いだが、真崎甚三郎の動きは鈍い。ほとんど永田軍務局長が陸軍全体を動かしていた。といって強引に決めるのでなく、いかに合意取っていくか。できないときは辻政信らを手先に謀略を使った事件がこの事件だ。無理をしすぎて永田は墓穴を掘った。2016/11/21

keint

6
いわゆる陸軍士官学校事件の過程とそれに関わる人々の事件前後における事情を解説している。 皇道派、統制派両方がこの事件で暗躍しており、辻政信の皇道派抑制策などさまざま陰謀が渦巻いていたと感じた。真崎甚三郎の教育総監解任などこの事件が皇道派の陸軍中枢からの衰退のきっかけになり、相沢事件そして二・二六事件への道になっていく。2019/10/01

ポン・ザ・フラグメント

6
この事件については、これまで青年将校の勇み足や辻政信の陰謀という、皇道派vs統制派の二極対立図式に単純化されてきた経緯がある。その中から士官学校生を独立の一極として三極構造に見た点が、この書の新味である。説得力のある視座だ。事件全体を統括できていた当事者などはいなかった。軍法会議になるまで「事件」は存在しなかったとさえ言える。しかし、この事件、佐藤というひとりのエキセントリックな士官学校生がいなければ、起きなかったかもしれない。続く相沢事件も二・二六もなかったかもしれず、その後の日本の歴史も……。2016/10/23

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