エクス・リブリス<br> 未来散歩練習

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エクス・リブリス
未来散歩練習

  • ISBN:9784560090855

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内容説明

新しい世界を信じて夢見た
彼らが練習した未来へ

著者は、社会問題に独創的な想像力で対峙する、韓国で最も注目される新鋭作家である。 光州事件、釜山アメリカ文化院放火事件からの時間を、歩きながら思索し、つながりあう五人の女性たち。今を生きる・過去を理解する・未来を思うことを重層的に描く物語。
スミと幼馴染のジョンスンはホテルで会って話している。東京の大学院に留学し、仕事に追われる自分に不安になるスミ。ジョンスンは東京で結婚し離婚して、育児の悩みや経済的な苦労を抱える。スミはこの日の朝まで、親戚のユンミ姉さんと一緒にいた。ユンミ姉さんのことをしっかり記憶にとどめておきたいとスミは強く思う。
1980年代、釜山に住む中学生のスミの家に、刑務所を出た大学生のユンミ姉さんが突然やってきた。彼女がアメリカ文化院放火事件の実行犯の一人だと教えてくれたのはジョンスンだった。ある日、ユンミ姉さんがバスで光州へ行くと言い、スミが同行することになる……。
ソウルに住む作家の「私」は釜山を訪れた際、不動産を所有しながら一人で暮らす六十代の女性、チェ・ミョンファンと出会い、その生き方に刺激を受ける。そして、ずっと興味を持っていた釜山アメリカ文化院放火事件に、チェ・ミョンファンも遭遇していたと知り……。
釜山アメリカ文化院放火事件に関わる人々は「来たるべき未来を練習した人」とされ、「私」は現地周辺を歩きながら、当時の人々が何を思い、記憶し、来たるべき未来の練習をしていたか、息をするような等身大の感覚で肉薄していく。
「私」は『チボー家の人々』を心の拠り所にし、ジャックの存在を自身の内にあたたかく感じ取る。人々が練習した未来は今日に続き、悩みながら懸命に生きる読者一人一人と強い信頼を結ぶ。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。

ヘラジカ

52
こちらも際立ってユニークな作品ではあるが、特異空間と呼びたくなるほど異彩を放っていた短篇集『もう死んでいる十二人の女たちと』と比べると確かに柔らかくて読みやすい。一種のフラヌール小説と言うべきか。文字通り散歩するように場所や時間を超越する語りは、本来なら読みにくく混乱を来すはずなのに、不思議なくらい心地良い。揺蕩うように読んでいて、気が付いたら最後の一ページだった。テッド・チャンの「あなたの人生の物語」で描かれていた異星人の言語と思考を思い出す。天才的作家による世界観。とても良かった。2023/07/05

ケイティ

26
難解というか、つかみどころがないというイメージのパク・ソルメさん初読み。そもそも今作は読みやすいようですが、齋藤さんの訳が素晴らしい。少し混乱しながらも、繊細だが強く濃密な文章力に浸りながら読了。釜山アメリカ文化院放火事件を背景に、その関係者との間接的なかかわりを持つ人々の物語。中学生のスミと、作家を志し釜山とソウルの二拠点生活を送る「私」のシームレスな物語は、決して交差しないのに、光州事件から続く激動の韓国で、一歩ずつ人生を進めていくひたむきさを感じた。齋藤さんのあとがきも秀逸でした。2023/08/16

星落秋風五丈原

26
頻繁に出てくるのが光州事件とアメリカ文化院放火事件。二つの物語が並行して進む。「私」は『チボー家の人々』を心の拠り所にし、ジャックの存在を自身の内にあたたかく感じ取る。2023/07/28

shoko

20
韓国の歴史的事件を題材としつつ、5人の女性の二つの物語が循環する作品。事件はあくまで直接は関わりのない2人の女性の目を通して間接的に、散歩するように揺蕩う意識の流れを追うように描かれる。女性たちの生き方に共感したりお腹が空いたりしながら読み進めるも、韓国の歴史に疎い私には特に放火事件にかけた学生たちの朝鮮の未来を民族の手で決めたいという熱い思いが印象に残った。「来てほしい未来を思い描き、手を触れるためには、どんな時間を反復するべきなのか」という作者の問いかけが木霊する。韓国文学いずれもっと読みたい。2023/08/30

Kanako

19
今を生きる自分たちの道が、過去の苛烈な事件を生きた人たちから続く道だということを思い出させてくれる物語。そして今は未来の道を創造するための練習の時間であると。大きなスケールを闊歩する物語ではあるけれど、散歩というタイトルのとおり、その足取りは軽やかである。何か巨大なメッセージを伝えるものではなく、あくまで個々人の小さな、それでいて尊重されるべき歩みを伝えてくれる。2024/10/25

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