内容説明
1937年,日本軍は中国での戦線を拡大し,戦争の泥沼に突き進んだ.その一大汚点としての南京事件.殺戮・略奪・強姦の蛮行はいかなるプロセスで生じ,推移し,どんな結果を招いたのか.日中全面戦争にいたる過程,虐殺の被害の実相,推定死者数等を旧版より精緻に明らかにし,事件の全貌を多角的に浮かび上がらせる増補決定版.
目次
新版に寄せて
序 二つの裁判で裁かれた南京事件
Ⅰ 日中全面戦争へ
Ⅱ 海軍航空隊の戦略爆撃
Ⅲ 中支那方面軍,独断専行で南京へ
Ⅳ 近郊農村から始まった虐殺
Ⅴ 南京占領――徹底した包囲殲滅戦
Ⅵ 陸海両軍による「残敵掃蕩」
Ⅶ 入城式のための大殺戮
Ⅷ 陸の孤島での犯罪と抵抗
Ⅸ 南京事件の全体像――犠牲者総数を推定する
結びにかえて――いま問われているのは何か
主な参考・引用文献
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
trazom
132
南京事件というと、すぐに「虐殺の人数論争」に誘導したがる人たちがいるが、犠牲者総数が不明なら、恰も事件の有無自体が不明だと印象付けたい思惑が透けて見えて、殺伐とした気分になる。それに対し、笠原先生が描く南京事件は、客観的で信頼性の高いものだと感じる。特に、事件の背景(戦線不拡大の参謀本部と中国一撃論派との対立、上海派遣軍の軍紀頽廃の事情)、海軍の関与の重大性(海軍航空隊による南京爆撃やパナイ号事件)、日華両司令官の俗人的特徴(松井石根と唐生智)などの新たな知識を得て、事件への理解が一層深まった。2025/11/01
kinkin
96
日本政府は、日本軍による南京入城後、非戦闘員の殺害や略奪行為があったことは否定できないと、独特の言い回しである。この事件は事件に大量虐殺と付け加えるのが当たり前だと思う。いまだにそんな事件は存在しない、捏造だ、そんなに殺されていないと、ネットにおいては語られている。数の問題ではなく一般人や女子供までを虐殺されていたのは海外の記者たちが本国に伝えている。大本営の規律の徹底が悪かった、兵站が悪かったことが原因でもあるが私が感じるのは命令とはいえ人が記述されている蛮行をどのような心でおこなったのか。2025/09/04
skunk_c
87
秦郁彦とは立場の違いを指摘されることの多い著者で、本書でも例えば大山事件海軍陰謀説を主張(他の研究者の同意はほぼ読んだことがない)したりしているが、事件の基本的な構造は両者ともほぼ同じと感じた。軍中央の制止を無視して己の功名心に駆られて突き進んだ現地軍司令官の下で、上海戦で多くの犠牲を払いつつ、休むまもなく兵站補給も不十分なまま戦い続けた兵士達が、この蛮行を引きおこしていく。言うまでもなく当時の日本にはびこるアジア人蔑視の意識や、兵の糧食すら用意せず、捕虜を「処分」するしか途のない軍の恐ろしさを痛感した。2025/08/09
さぜん
57
日本政府は、非戦闘員の殺害や略奪行為があったことは否定できないと考えているにも関わらず、その歴史的事実を後世に残そうという姿勢はないようだ。本書は、膨大な資料から客観的事実を丁寧に炙り出し、日本人として目を背けたくなる非人道的な行為を記している。日本、中国共に様々な不運な状況が重なり、偶然的な要素も相まって想像を絶する状況になったことは、決して隠蔽することではない。あったことを無かったことにせず、目を背けない。今こそ、歴史の記憶の共有が必要であり、それが、戦争を一つでも減らすことに繋がると信じたい。 2026/03/18
さとうしん
26
南京事件の諸相を当事者の生き残りや当時南京に在住していた外国人の証言など、多方面からたどる。被害のありさまはただただ「酷い」のひとこと。よく話題に出る当時の南京の人口や殺害の規模についても詳しい論証がある。当然人口は20万で収まるはずもなく、虐殺・強姦なども南京近郊の農村にまで広がっていた。また、近年でも日本側の心ない「反論」が当事者に対する二次加害を引き起こしたことや、南京事件に関連してアメリカの砲艦パナイ号撃沈事件が真珠湾奇襲の前哨とも言うべき報復感情を呼び起こしたという点に触れている。2025/08/04




