内容説明
十七歳の翠は浅草生まれ。私娼窟の玉の井で育ち、流れ流れて京城(現在のソウル)に来た。養父の口利きで、国語教師の家に世話になりながら女学校に通うのだ。下宿先には同い年の朝鮮人のお手伝い、ハナがいた。翠がなかなか彼女と距離が縮められずにいたところに、ハナの弟が行方不明になるというできごとが起こる。その日のうちに弟は無事に見つかるが、そんなことから翠とハナの間の日本人/朝鮮人の垣根が開いていく。そして翠には京城を訪れるひそかな理由があった。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
モルク
96
日本統治下の朝鮮の京城。日本から「かりそめのお嬢様」として来て女学校に通う翠と、翠の下宿先で子守として働く朝鮮の少女ハナ。友達になりたいと願う翠とそっけないハナ。戦争に突き進んでいく世相の中で次第に近づく。当時の朝鮮人への差別、関東大震災直後の朝鮮人の虐殺…苦しい描写もあるが、時代の波に流されながらも自分らしく生きようとする二人。果たして再会は果たせたのか。 私の亡父は子供の頃に朝鮮からの引き上げ者。いつか暮らしていた南部の町順天に行きたいと言っていた父の願いを叶えてあげられなかったことが悔やまれる。2025/12/05
ゆみねこ
70
1936年、日本統治下の京城(ソウル)で出会った2人の少女。翠は東京下町の娼婦街で育ち、かりそめのお嬢さまとして念願の女学生に。日本人家庭の下宿には同い年の子守りの朝鮮人少女ハナがいた。無口で言葉を理解しないと思えたハナが日本語の本を読んでいた。友だちになりたい翠と頑なに拒むハナ。やがて2人の気持ちが通じ合い2人をつなぐ数奇な運命が明らかに。関東大震災、朝鮮人差別、心に深く留めておかねばと思った。ラストは少し明るい気持ちでよかった。2025/09/21
わむう
25
1936年、京城(現在のソウル)で出会った日本生まれの翠と朝鮮育ちのハナ。翠は下宿先の子守りをしているハナと友達になりたいのだが、ハナはなぜかいつもそっけない。ハナが日本の文字を読んでいるところや、子どもの頃に別れた父親をハナの家に入っていくところを目撃する。最後にお互いなぜ惹かれあうのか理由がわかる。 2025/11/08
雪丸 風人
20
日本が戦争に向かう時代に、厭世気分に染まる少女が朝鮮半島に渡り、忘れがたい出会いに恵まれます。揺れ動く密やかな関係性が凄い!笑顔の仮面を貼り付けながら取り付く島もなかったあの子との距離が変わっていくさまに魅了されました。運命を変える方策に考えを巡らせる主人公の足掻きと、見透かして振る舞う見守り手の応酬も楽しいですね。生への肯定感あふれるラストには素敵以外の言葉が見つかりません。支配と被支配の意識格差や差別が生み出す悲劇がズシリとくる部分もあって、重厚かつ濃密な一冊でした。(対象年齢は14歳以上かな?)2025/10/04
スイ
19
青波さんは追い続けたいと思っている作家さんなので、新作が読めて嬉しい。 日本の植民地支配を受けている朝鮮で、じきに金持ちの老人の妾にさせられる性別・格差からの被害者であり、同時に朝鮮の人々を踏みつけている支配国側に加害者でもある主人公を丁寧に描いている。 少女たちが共に過ごす姿はとても活き活きしていて清々しいので、一層それを引き裂くものの醜さが際立った。 今後も期待して待っている。2025/11/26
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