内容説明
「僕は旅に出るよ,リザヴェータ.新鮮な空気が必要なんだ」 芸術への愛と市民的生活との間で葛藤する繊細な青年トーニオ.自己を求めて遷ろい,かつて憧れた二人の幻影を見た彼は,何を悟るのか.トーマス・マン(1875-1955)の自画像にして数多の作家が愛読した名作が,原文のニュアンスに忠実,かつ読みやすい訳で蘇る.
目次
トーニオ・クレーガー
訳者解説
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
kero385
29
九州大学大学院教授小黒康正氏による、現在最も新しい「Tonio Kröger」の翻訳。 この小説がいわゆるソナタ形式で書かれていることを詳述している点、最近の研究成果トーマス・マンとアンデルセンの関連などを紹介している点、多用されている「体験話法」(三人称を用いて一人称のような記述を行う用法)に触れている点など、巻末解説は大変優れている。ただ、訳文そのものに焦点を移した場合、以前の翻訳に比べて、例えば実吉捷郎氏や高橋義孝氏の訳業から、失われたものがあると感じる。2026/04/16
ふぁるく
20
『魔の山』に苦戦し、道を逸れた。描写のひとつひとつに惚れながら、「市民愛」を語る主人公。最後の段落に深く心が洗われた。解説もわかりやすく、訳も忠実な再現に努めたとのこと。ページも一周目で気付なかった箇所を一度読み返したりし、いい体験になった2025/08/15
柚木あんづ🍉
18
一度挫折しているのだけど、新訳が出たので再挑戦。青い目とブロンドの髪をもつハンスとインゲボルクに強く惹かれる、14歳のトーニオ。少年期から「生」と「精神/芸術」、「市民」と「芸術家」の間に挟まれながら生きてきた彼は、すでに詩人として成功しているが、「明るく生き生きとした者たち」への敗北感は拭えない。読み終えて、詩人としての視点はこれほどまでに美しいのに…と思ったとき、私の中にも彼のような敗北感があるのを感じた。わかりすぎるほどわかるし、学生のとき読んでいたら、もっと影響受けただろうなあ。いやぁ面白かった。2025/06/17
qwer0987
16
長年親しんできた実吉捷郎訳からの変更とあって、さっそく手にしてみた。内容は過去にも触れているが、訳が変わっても、芸術と市民というどちらにも属せないトーニオが両方の世界を愛し、両方の世界に属していこうと自己確認していく過程が胸を打つ。訳もすばらしく、丁寧に整理して語を組み立てており、文章に気を配っているのが好印象。勢いのある実吉訳や、若々しい印象を受ける河出の平野訳もすばらしいが、本作も岩波という長くスタンダードになるであろうレーベルにふさわしい誠実な訳業であった。2025/07/22
たぬ
15
☆3.5 偶然にもケストナーに続いてまたドイツ人作家です。トーマス・マンを読むのは8年ぶり。1903年に出版されたものが120年以上経った2025年にあらためて翻訳されました。第一章では14歳のトーニオ・クレーガーが同級の美少年ハンス・ハンゼンに向ける感情は明らかに友情以上のもので、もしやBL的展開に?と早合点。そのハンスのことも16歳の時に好きだったインゲボルクのことも、30歳を過ぎても完全に忘れることはなく心の奥底にずっととどまり続けるのだと思いました。2026/04/13




