内容説明
建築家水原のそれぞれ母の違う三人の娘、自殺した母の悲劇と戦争に恋人を奪われた心の傷(いた)みのために次々と年下の美少年を愛する姉百子、京都の芸者の子である妹若子、全く性格の違う姉や妹をはらはらと見守る優しい麻子。大徳寺、都踊、四条から桂離宮――雅(みやび)やかな京風俗を背景に、琵琶の湖面に浮かんだ虹のはかなさ美しさにも似た三姉妹の愛と生命(いのち)の哀しみを詩情豊かに描く名作。(解説・北条誠、田中慎弥)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
青蓮
113
異母姉妹3人を描いた作品。あらすじを読む限りでは結構ドロドロしてそうだなと思っていたけれど、実際読んでみたら淡々としていてちょっと肩透かしを食らった気分。でもこれくらい淡い物語の方が儚げで美しいのかも。後半になると麻子の存在が薄く、話の中心は姉の百子にシフトしていくけれど、肝心の若子の出番がそんなに無かったのが少し気になった。そこら辺を上手く掘り下げたらもう少し影のある作風になったように思う。川端文学にしてはやや切れ味が落ちるかな。胸を石膏で型取って盃を作るシーンは何だか妙にエロティックでした。2017/08/31
(C17H26O4)
72
それぞれ母親の違う姉妹三人。百子、麻子、若子。巡る季節の景色の美しさに、百子の寂しさばかりが際立っていた。麻子の誰からも好かれそうな優しさ大らかさは正妻の娘の余裕からだろうか。一方母親の自殺後、父と異母妹麻子が暮らす東京の家に引き取られた姉百子は、卑屈にもなろう。時に意地悪にもなろう。恋人にも受け入れられず戦死され。年下の美少年に自殺され。そして離れて暮らしていたもう1人の異母妹若子にも拒まれて。麻子が見たいくつかの虹。たとえ虹が百子の見る空にいくたびかかろうと、哀しさや寂しさは消えることはないのだろう。2019/01/20
佐島楓
56
異母姉妹を題材にした作品。心理描写とセリフにたたみかけるようなすさまじいものがあった。女性として、娘として、姉妹として、そして人として生きるということ。特に百子の心に棲む闇と苦しみは、あまりにも深い。それを自分で理解しながらも生きている彼女に、深い同情と哀しみ、おそろしさを覚えた。川端康成は、なぜこれほどまでに女性心理に聡いのだろう。2016/06/27
優希
54
雅な京都を背景に異母兄弟の物語。虹のように儚く美しさを秘めた3姉妹の愛が眩しかったです。2021/10/26
有
52
虹へ行く旅、虹が幾たびも掛かること、どちらとも取れる題名に感動した。心の中にある感情を育てているのは、いつも自分自身。相手のいない虹の端を、違う誰かに重ねてはいけない。自分の心の目で、向こう岸に愛を見つけることだ。虹はいつか消える。そしてまた違う虹が幾たびも掛かる。人と人との間に、そして自分の心の中に。誰かを理解しようと虹へ旅立つと、虹は途端に消えて無くなってしまうだろう。誰の哀しみも、本当には理解できない。でもそれでいいんだ。冬の虹、春の虹、何度も繰り返しながら、人は生きていく。そう解釈した。2020/12/13
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