内容説明
天才的な腕前を誇るナイフ投げ師が、私たちの町にやってきた! 彼の名はヘンシュ。それまでいかなるナイフ投げ師も越えなかった一線を越えたことで、その名声を築き上げたのだ。公演の日、噂に聞いたヘンシュの投げ技は、徐々に趣向をエスカレートさせ……(表題作)。夜、私たちの町では、少女たちの秘密結社が妖しい儀式を開くという。風聞や関係者の証言によっても、結社の真の姿は判然とせず……(「夜の姉妹団」)。自動人形、空飛ぶ絨毯、地下世界――精密な文章により現実から飛翔するミルハウザーの魔法のごとき十二篇を、名手の翻訳で贈る。/【目次】ナイフ投げ師/ある訪問/夜の姉妹団/出口/空飛ぶ絨毯/新自動人形劇場/月の光/協会の夢/気球飛行、一八七〇年/パラダイス・パーク/カスパー・ハウザーは語る/私たちの町の地下室の下/訳者あとがき/創元文芸文庫版訳者あとがき/解説=藤野可織
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
Shun
29
ミルハウザー短編集。現実的背景に魔術的描写が融合したような世界観は作家の唯一無二性を存分に知らしめてくれる。奇想小説と評しても差し付けない独自の発想、それでいてどこか現実世界とつながっているかのような描写は、人間というものとその社会への知悉ぶりが表れているようだ。ナイフ投げの巨匠が道を究めた結果行きつくパフォーマンスの極限(「ナイフ投げ師」)や、商業的成功を丹念に研究し昇華していった末に進化したテーマパークの末路(「パラダイス・パーク」)など、他では味わえない緊迫した奇想的発想の物語がここにある。2026/10/04
M H
29
想像力はどこまで翔び、心の目はどれだけ微細な事象を捉えるのだろう。たとえそれが狂気を呼んでも。研ぎ澄まされた静寂と不穏さを湛えた表題作のほか、いずれもミルハウザーの脳内と文章力を見せつけられる贅沢な文庫本。これで創作ペースは遅くないらしくてコワイ。ともかく描写が細密なので読み手の集中力も相応に必要ではあると思う。情景を精一杯想像しながらゆっくり読み進めた。2025/09/07
まえぞう
22
何とも言えない雰囲気の短編集でした。物語と言うよりは抽象画を鑑賞したような不思議な感じです。2026/06/13
メセニ
20
7/10。スティーヴン・ミルハウザーの凄みはたんに緻密に描けるというだけではない。そこには丸ごと一つの小さな世界を構築してしまう執拗さと狂気があるように思う。ナイフ投げ師、少女たちの秘密結社、空飛ぶ絨毯、地下世界。彼は奇想を描く。私たちの属する現実からほんの少し隔たった不穏な世界だ。だけどそれはどれも自分自身の内側を垣間見ているようではないか?私たちが抱える不安や怒り。少年期にありがちな肥大する自意識と気持ちの移ろいやすさ。自壊するほどの野心と欲望。想像力にしばし現実を侵食されつつ心地よい時間でもあった。2025/12/16
tokko
20
ミルハウザーは先に『十三の物語』を読んでいたけれど、それよりも以前にこのような短編集を出していたことに驚き。とにかく読者の視点が登場人物のそれと近い。ほとんど間近で体験しているかのような、細かい描写が特徴的。こだわりにこだわり抜いた文体に辟易するかハマるか、読んでみないとわからないので、結局は読むことになる。それがミルハウザーだと割り切って読むしかない。2025/09/15




