内容説明
天才的な腕前を誇るナイフ投げ師が、私たちの町にやってきた! 彼の名はヘンシュ。それまでいかなるナイフ投げ師も越えなかった一線を越えたことで、その名声を築き上げたのだ。公演の日、噂に聞いたヘンシュの投げ技は、徐々に趣向をエスカレートさせ……(表題作)。夜、私たちの町では、少女たちの秘密結社が妖しい儀式を開くという。風聞や関係者の証言によっても、結社の真の姿は判然とせず……(「夜の姉妹団」)。自動人形、空飛ぶ絨毯、地下世界――精密な文章により現実から飛翔するミルハウザーの魔法のごとき十二篇を、名手の翻訳で贈る。/【目次】ナイフ投げ師/ある訪問/夜の姉妹団/出口/空飛ぶ絨毯/新自動人形劇場/月の光/協会の夢/気球飛行、一八七〇年/パラダイス・パーク/カスパー・ハウザーは語る/私たちの町の地下室の下/訳者あとがき/創元文芸文庫版訳者あとがき/解説=藤野可織
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
M H
28
想像力はどこまで翔び、心の目はどれだけ微細な事象を捉えるのだろう。たとえそれが狂気を呼んでも。研ぎ澄まされた静寂と不穏さを湛えた表題作のほか、いずれもミルハウザーの脳内と文章力を見せつけられる贅沢な文庫本。これで創作ペースは遅くないらしくてコワイ。ともかく描写が細密なので読み手の集中力も相応に必要ではあると思う。情景を精一杯想像しながらゆっくり読み進めた。2025/09/07
メセニ
18
7/10。スティーヴン・ミルハウザーの凄みはたんに緻密に描けるというだけではない。そこには丸ごと一つの小さな世界を構築してしまう執拗さと狂気があるように思う。ナイフ投げ師、少女たちの秘密結社、空飛ぶ絨毯、地下世界。彼は奇想を描く。私たちの属する現実からほんの少し隔たった不穏な世界だ。だけどそれはどれも自分自身の内側を垣間見ているようではないか?私たちが抱える不安や怒り。少年期にありがちな肥大する自意識と気持ちの移ろいやすさ。自壊するほどの野心と欲望。想像力にしばし現実を侵食されつつ心地よい時間でもあった。2025/12/16
練りようかん
17
12編収録。岸本訳のデビュー作が印象に残っている著者。短編集のためかより研ぎ澄まされた感触で、不安や失望の身体表現は冴え冴えとしていた。友の妻という異分子に動揺し友が新しい人物に見える「ある訪問」は、奇譚のムードに引きこまれた。カルトの徴候がみられると周りがやいのやいの言う「夜の姉妹団」、タイトルから興味を抱いた「新自動人形劇場」も、視点を変えれば物事が見えてくる話に思えて実は視点人物の心の変化が物事の見え方を変える話に思えたのが面白い。中の人は独立独歩の高みをゆく、正解を撫でてるだけじゃ調和は欠ける。2025/09/23
tokko
14
ミルハウザーは先に『十三の物語』を読んでいたけれど、それよりも以前にこのような短編集を出していたことに驚き。とにかく読者の視点が登場人物のそれと近い。ほとんど間近で体験しているかのような、細かい描写が特徴的。こだわりにこだわり抜いた文体に辟易するかハマるか、読んでみないとわからないので、結局は読むことになる。それがミルハウザーだと割り切って読むしかない。2025/09/15
水蛇
6
Cabinet d’amateur好きにはたまらなかった。ひとつひとつルーペで覗きこみたいほどの端正さと熱意で描かれたちいさな人生がみっちり並んでる小部屋あるいはキャンバス。あの日の(どんな日かにかかわらずほの暗い)出来事や感情に斜めからライトを当ててみたら、わかちあえると思ってなかったものをいっしょに見いだしてた。これぞミルハウザーの魔法。ただすごく悔しいのは「夜の姉妹団」。ものすごく好きなんだけど、好きだからこそここまで説明しないでほしかった。こんなに言葉ではっきりと解説されたくなかった。わたしたちの2026/02/16




