内容説明
余命わずかな継母と、念願の出産を控えた娘。母が去り、父が去り、長年この継母をただ一人の母として生きてきた娘は、その姿をなんとかこの世にとどめようと、母の《記録》を専門の担当者に依頼する。やがて継母は、心の底に沈めていた記憶を語りはじめる……。思い出すことの痛みとその豊かさ。期待の新鋭による意欲作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ちゃちゃ
74
記録が記憶を呼び覚ましてゆく。その痛みと再生への道を描いた作品。封印された記憶の鍵を開けたのは、AIの技術によって、余命わずかな母親(継母)の記録を遺したいという娘の願い。しかし、記憶を辿る母親に鮮烈に蘇ったのは、この世に生まれることが叶わなかった我が子への痛切な想いだった…。生まれなかった子どもの名前を、せめて〝記憶を繋ぎ留める杭“として強く欲し自責の念に苛まれる冬香。母の様子に深く傷つく娘の紗南。二人の微細な心の揺れが繊細な言葉で丁寧に紡がれ胸を打つ。小池水音作品、二作目だったが好みの作風だった。2025/12/10
tenori
27
著者初読。見送る側が見送られる側に立つことを意識し始めたときの静謐ながらも濃密な時間。余命を告知され、義娘の希望でAIによる人生の再現という記録技術を受け入れた母親。血のつながりのない義娘との人生を振り返る過程で、蓋を閉じていたはずの感情と欲求の記憶がよみがえる。母親が義娘の裏側に見ていたものに互いが気づくとき、その交点で生まれる思いとは。感情のないAIが残す物理的な記録と、曖昧で複雑な人間としての精神的な記憶。その対比の描きかたに気持ちが揺さぶられる。2025/11/29
練りようかん
16
既読の『息』は身体性の高い描写に引き込まれたのだが、表題作は余命僅かな高齢女性が語り手で身体の動きも日々の記憶力も衰えをみせる描写に、逆のパターンがきた!と気持ちが盛り上がった。美しい景色を思い出す場面は瞼を閉じようもんなのに開くとあり、何かあるぞと意識が集中。娘が提案する「記録」によって50年間潜んでいたものがあらわになる展開で、林の景色と美しい景色の重ね方が上手かった。ここでは未来のための記録だけれど、記録は過去、記憶は未来に向かうものだと感じたのが面白い。ラストが三島賞候補の理由かな。他作も読む。2025/09/02
信兵衛
16
小篇の「二度目の海」も含め、本作は<記録>と<記憶>を描いたストーリー。 そしてそこに、名前はどれだけの想い、重みを持っているのか。 改めて問われることによって、そこに清新な印象と、深い切なさを感じます。お薦め。2025/08/28
アマザケ
13
時間が静かに流れる。余命幾ばくもない74歳の冬香があるきっかけによって過去を回想するお話。そこには明るい光は見えないが、人生の終焉間近になって、過去の恋人との出来事が心残りだったのだろう。悲しいことに明らかになるほどさらに悲しみは増す。それが娘まで伝わっていってしまう。2025/12/18
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